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君想ふ夜桜《銀魂》

第16章 愛しさと切なさは紙一重



高杉は上げていた拳をそっと戻した。

「アイツはきっと、そんなこと望まねェ。アイツが嘘付いてまでこの家の輪を乱そうとはしなかった。だから俺は、それを己の私情で壊すつもりはねェ」

去年のことを許したわけじゃない。

ただ全ては、雅のためだ。

「……すまない」

主人はまた作業に戻った。

何があっても、受け持った仕事は依頼者の希望の受取時間までに必ずやり遂げるのが職人だから。

「なんだかな。あれから家内とは何だか仲が良くなった気がする。きっと先生が俺の愚息だけでなくうち全体を治してくれたんだな…」

俺はずっとこの頑固な頭を使って、自分なりに家族を護ろうとしてきた。

この世の中物騒だから、妙なことすれば些細でもしょっぴかれるかもしれない。

アイツは働き者だが、今のままじゃ不満せず、男仕事までしたいとよく言っていた。

だが俺は「スッ込んでろ。女は子供達の面倒で十分だ」と頑固な口を開いた。

だから俺はアイツらの意志に反しても護ることが正しいと思ってた。

でも今では、妻には仕事を手伝ってもらっている。

そして妻は前、俺に謝ってきた。

“差別をしていると思いこんでいた。でも本当は護ってくれたんだね”


「あの方には、感謝以外何も言うことはねェ。ただ……」

「?」

「恩人である先生の名前が聞けないのは残念だが」

「……アイツは慎重な奴だ。自分がイレギュラーな存在だから、それが明るみに出たらマズいことを知ってるんだ」

「あのお方、お金を一切取らなかったです。せがれの手術の。その代わりに別のことを頼んできたんです」

「別のこと?」

主人は去年雅が自分に言ったことをそのまま伝えた。

“1つ。私の名前は決して知らないままでいること”

“2つ。私の存在と今回やったことを、決して公言しないこと”

“そして最後。この2つのどちらかでも破った場合、息子さんはまた命の危機に瀕すると肝に銘じておいてください”

「!」

「正直あの方の腕はまさしく“神”にも匹敵するような腕だ。だから、もしその約束事を破れば、息子は“死の呪い”によってまた病に冒されるんじゃないかと。有り得ない話ではないなと思った。」

“神”、“死の呪い”。

“死神”と呼ばれている雅には相応しい響きだった。

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