第16章 愛しさと切なさは紙一重
(先生が軍医として戦に出て、この若ェ旦那は、先生に頼りにされる強者ってわけかい?)
こんな若ェのに、先生もこの旦那も苦労してるな。
天人の大砲一発で腑抜けになったこの国は、正直俺も好きじゃねー。
この街はいつも活気で明るいが、裏では周りの奴らは、この戦乱の世が早く終わんねーかとそわそわしてる。
この現状から目を背けたいから、少しは街で楽しく過ごして嫌なことを少しでも忘れようとするんだ。
俺以外の職人の奴らには、侍が滅べばこの戦が終わるから、早く滅んでくれねーかなんて抜かすやつもいる。
「国を悪と見なし討とうする時代遅れの侍の首と、俺達国の未来を生きる民の首、どっちが大事なんだ?」といっつも議論する。
天人に支配されないように戦うお侍を肯定する奴はあまりいねェ。
心の底では肯定しても、口に出せば“はみ出し者”と揶揄されるからだ。
女が医者やってるのと同じようなモンだ。
国に仇なす侍の片棒を担ぐなんてことが知られたらお縄になる。その家族もろとも打ち首になるかもな。
だから俺は“この本心”を決して口に出さず、藍屋として生計を立てている。家族を護るために。
“俺は、天人から国を護ろうとする志の強いコイツらのことを、嫌いにはなれねー”って本心を。
俺はその本心に従って、去年の先生の申し出も快く引き受けた。
たとえ揶揄されても決して曲がらないその志に感服した。
恩だけでなく、小さいながらもこの人の力になりたいと思った。
主人はそんなことを思いながら、雅の旅用の着物のお直しを進めた。
「さっきの娘の無礼は許してくれ。アンタと先生はうちの大事な客人だからな」
雅は相当この家に信頼されているな、と高杉は思った。
「去年、みや……アイツがアンタの子息を…」
「ああ。おかげで大事な跡取りを失わずに済んだ。いやもちろん、息子自体も俺達にとって宝みたいなモンだ。まだ若いアンタらには早ェ話だろうが」
「……」
高杉は目を反らした。
確かに子を持つ親の気持ちは、今の自分にはまだ早い話だが、こうストレートに言われると何だか……
(しかもアンタ“ら”ってそれはァ……)
高杉は自分の頭をくしゃくしゃかいた。
「本当にあの人には感謝している。去年に戻って、あの人を殴ってしまった自分の腐った根性を叩き直してェ」
え?