第16章 愛しさと切なさは紙一重
「先生からは、当時の俺みてーな新婚のオーラが全く無かったからな」
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「それに気付いたアンタの方は、初心を忘れてなかったってことかい?」
「!」
藍屋勘は気付かず主人が気付いていたということは、新婚の時のことをよく覚えているということ。
それほど妻のことを…
いつも素直じゃなくツンとしているが、本当は愛妻家だということを知られたみたいで、主人は慌てふためいた。
「あ、アンタはどうなんだよ?先生は全くだったが、嘘を付くときお前は満更でもなさそうにも見えたが」
「!!」
本心は少しノリノリだったなんて、言えるわけない。
主人は「これ以上この旦那をからかえば、自分も妻と娘の同類になる。そんなのはごめんだ」と思った。
「とにかく悪かったな。うちの家内と娘のせいで、冷や汗かかせちまって」
「そうだな。おたくの娘に振り回されたのはあれだったな」
「どれだったんだ?」
「それだ」
「結局どれだよ」
血を落とす作業が終わり、次にそこを乾かした。
「さしずめ、アンタらはダチと言ったところか?」
「ああ、それが一番的確だ。だがまァ、アイツはあまり俺とはダチらしく親しくするつもりはねェらしいが」
ダチはダチでも戦友。ただ戦で勝つために協力し合う一時的な共闘が近い。
幼なじみなのに、未だにアイツとの間には溝のようなものを感じる。
アイツが自分から壁を作ってるみてーな。
(そんぐれー昔、色々あったってことかな…)
「確かに先生は嘘付いたが、アンタを大切に思ってんのは嘘じゃねーと思うぜ」
「!」
アイツが、俺を?
「先生は旦那を“頼りになる人”って言ってただろ。あれは嘘の顔じゃなかった」
主人は染め物だけでなくそれを売る客商売もしてきた。
客の顔色を伺うこともあったから、職業柄で嘘かどうかも何となく分かるのだ。
あの商売が本職の天才詐欺師、辰馬ほどではないが。
「あんな頼りになる方に頼りにされるなんてな」
主人は高杉のことをただ者ではないと思った。
そして、高杉が雅が戦友であることも分かっていた。
去年、雅の陣羽織を仕立てたのは彼で、何より2人共刀を腰に差しているから丸出しだ。