第16章 愛しさと切なさは紙一重
「そ、そのお怪我。大丈夫なのですか?!血の量が…!」
さっきまでホヤホヤムードが一気に血の気が引く惨劇と化した。
「怪我の方はもう大丈夫です。それより服がこの様子では周りに見られて目立ってしまうので、何とか元に戻したいのですが」
雅は傷跡を痛がる様子もなく、いつもように淡々と冷静に説明をした。
主人が言うには、血を洗い流して切れたところを縫い付けるのはできるが、その間は別の服が必要になるとのことだ。
雅は料金を払うから、服のお直しと服のレンタルを頼みたいと言った。
「染め屋なのは知ってますが、できれば縫うまでやってほしいです。私はダメージジーンズみたいな斬新なファッションは好みませんから」
(そんな横腹あたりがダメージ食らってる着物見たことねーよ痛々しいわ)
高杉は心の中で突っ込んだ。
「いえいえ。先生からお金は取りません。息子を救ってくれた恩人ですから。あの子にまたお礼をさせたいのですが、今は寺子屋の友達と外で元気に遊んでいるので」
「それだけ聞けて充分です。ではお言葉に甘えます」
さっき高杉に言われたこともあり、厚意を受け取ることにした。
藍屋勘は雅を奥の着替え部屋へ連れて行き、それから主人は工房で雅の服の血を落とす作業に入った。
高杉は自然とポツンと1人になってしまった。
工房は隣の部屋で、すぐそこで藍屋の主人が作業をしている。
自分は雅が着替えてくるまでただその背中を眺め、畳の上で暇そうに座って待っている。
何だか気まずい。雅の知り合いでも一言もしゃべってない相手だ。
ずっと黙ってるのもあれだと思い、作業の支障にならないよう、礼だけを言うことにした。
「その…うちの連れが世話になるな」
「アンタら、本当は夫婦でも婚約者でもねーんだろ?」
「!」
主人は背中を向けたまま作業をして、高杉に聞いた。
「全く、うちの娘ときたら客様に迷惑をかけるなんて。面目が潰れるな」
主人は、自分のバカ娘で先生が嘘を付いたことに気付いていた。
同じくバカな妻の藍屋勘は気付かなかったのだが。