第16章 愛しさと切なさは紙一重
あの時私に、今のような力があれば。
そんなタラレバを幾度考えたことか…
私が松陽の元で力をつけ、この戦に参加した目的は、
・・・・・
他にもある。
この戦に勝てば、きっと全ての真相が分かるからだ。
多くの人を救った善人のせんせーをお門違いに付け狙った幕府どもの企みも。あの人がどこにいるのかも。
だがこれは紛れもなく私情だ。
・・・・・
私の本来の目的は決して見失わないようにしなくては。
この話は戦が終わるその日まで、胸の奥底にしまっておこう。
「……あの人は私の先生です」
「そうだったのか!君が!何て奇妙な縁なんだ。それを知っていてここに来たのかい?」
「……はい」
本当は偶然だった。せんせーがよく持ってきてくれたお土産と同じ味だったから気付いたのだ。
つい嘘をついてしまった。
「そのお医者様の先生、今は元気かい?」
「!」
その質問は、今自分が一番したいくらいのものだ。
雅はふるえた拳をぐっと握った。
「…ええ…元気…ハツラツですよ」
そして現在。
3人は藍屋に辿り着いた。
「父上ーッ!母上ーッ!」
娘はガラッと玄関を全開にし、一目散に我が家へ入っていった。
玄関が開き中を覗くと、藍屋の工房の部屋があった。
(ここが…)
奥から娘と連れてこられた母親の藍屋勘が来た。
「先生!お久しぶりです!話は聞きました」
雅は編み笠を脱いだ。
「アナタのこともお聞きしています。はじめまして」
藍屋勘は高杉に一礼した。
「よろしければお茶でも…」
「いえ。一目お会いするだけで遊びに来たわけではないので、お気遣いは…」
「ええー、せっかく先生が好きな和菓子買ったのに。一緒にお茶しようよ」
娘はさっき買った和菓子が入った袋を広げて見せた。
(さっき買ったのは、
・・・・
そのため?)
「前回はできなかったので、ぜひ……」
「……」
「いいじゃねェか。てめーへの厚意なら受け取っておくのも」
高杉は雅の背中を押した。
「…アンタが言うなら」
お茶を頂くことにした。