第16章 愛しさと切なさは紙一重
「変わった風貌だったから覚えているよ。そういうところ、アンタに似てたな」
「……他に何か…言ってませんでしたか…?」
「そうだなー。弟子の自慢話をよくしてたな。物覚えは早いし、ここの菓子に負けないくらい甘えん坊で、母親似で溌剌たる性格だってな。だが自分のことはあんま話さなかったな」
私が知らないところで、そんなことをあの人は……
「アンタ、ひょっとしてあの人の……?」
「……」
雅は店主の質問に答えず黙って俯いた。
(やっぱりこの店に、せんせーが……)
今頃、あの人はどこにいるんだろう。
10年前からずっと、会っていない。
せんせーの人殺しを初めて見た数日後、あれが最後の日だった。
“死神”と呼ばれる度に、ふと思い出す。
“もう1人の死神”を。
黒いコートに黒髪。でも心はとても明るい色で、いつも私を優しく照らしてくれた。
母は病気を治してもらい救ってもらった。そんな彼のことを尊敬していた。
でもあの時、初めて、せんせーが救うんじゃなくて殺すところを見た。
せんせーは、私を助けるために“奈落”を殺して、その手を血に染めた。
“お前とはしばらく離れる”
“え?”
なんで、そんなこというの?
私がせんせーを怖がったから、私のこと嫌いになったの?
それとも私が、自分の身を護れないから?
私が、弱いから?
“今のお前はまだ10の子供だ。お前には荷が重すぎる”
そんなことを言ってあの人は私の前から姿を消した。
どうしても止めたかった。でも行ってしまった。
正直私は、あの人がまだ生きていると希望が持てなくなる。
たとえ誰よりも“死”を知って、“死神”のようなあの人でも、“人間が決して逃れられない運命”を克服できるわけない。
10年経った今でも、あの人は帰ってこない。
私はもう大人だから子供じみた望みを持つほど世間知らずじゃない。
死体が出ない限り、あの人が死んでいるという証明はできない。
だが再会しない限り、生きている証明もできない。
(でも、あの人はもう、死んでしまったのかもしれない……)
あれほどすごい技術を持った人だったから、幕府に目を付けられるのは納得だ。
実際、私は“奈落”に拉致されそうになった。人質にしようとしたのだろう。