第16章 愛しさと切なさは紙一重
「とにかくそろそろここを出よう。もう休憩は十分だ」
「そうだね!父上と母上も、きっと私が道草食べてるって怒ってるわ」
雅は預けていた刀を返してもらい、3人は甘味処を出た。
「お前はおニューの刀のために街に来たのか」
雅は高杉達とは別で独りで出かけに行ったが、まさか目的地が一緒になるとは思わなかった。
「あの時みたいに、アンタに刀を借りるわけにはいかないからね」
山では高杉の刀を借りて、ギリギリで勝てた。
「随分と斬れそうな刀だな。だが何で黒いんだ?」
黒は何だか不吉の予兆みたいで、高杉はあまり気に入らなかった。
女が持つには、ちと華がない。前の方がまだ明るい色だった。
「黒や白はどんな色にも合う万能な色だ。ほら、銀が血まみれになっても絵になるだろう、インスタ映えするだろう」
「そんな仲間が血まみれなんて不吉な例出すなよ。しかも写真撮るな。それでも医者か?」
道案内の娘は後ろの2人の会話を微笑ましく思いながら、決して後ろを振り向かず耳を澄ましていた。
(お姉ちゃん。何だか1年前よりも……)
雅はさっきの甘味処で聴取したことをもう一度思い起こした。
とても、重要なことだから…
(まさかな……)
15分ほど前
雅は店の奥の厠に行くと見せかけて、客席のそばに立って、看板娘が厨房から出てくるのを見計らった。
(来た…)
「あのすいません」
「はいなんでしょう」
看板娘は雅に天使のような可愛らしい笑顔を向けた。
さすが接客業をしているだけあって、愛想はとてもよさそうだ。
しかも愛想の無さそうな雅に対して振る舞った。
彼女と歳は同じくらいなのに、性格は全く正反対だ。
「アナタ、10年前もここで働いていましたか?お店のことでお聞きしたいことがありまして」
「いえ…私は父が経営するこのお店の手伝いで、始めたのは2年前からです」
「そう…ですか…」
経営者なら、10年前からあるこのお店で働いていたはず。
しかし商い中なのにわざわざ呼んで話を聞くなんてできない。
(“あの人”のことを知っているかもしれないのに……)
雅の顔が曇った。
「あの、よければ父にお話を伺ってみますか?」