第16章 愛しさと切なさは紙一重
「やっぱり先生はクールで独りでいるより、誰かと他愛ない話でもして、それで普通の人のように自然に笑ってくれれば、何だか安心する…」
「……俺もだ」
高杉は自然と同感を口にした。
年下のガキが言うことなのに、まるで自分がいつも思っている事を言う。
俺の方がアイツと付き合いが長いのに、このガキがよっぽどはっきりと自分の考えていることを言っている。
しかも他人である俺に向かって。
「ひとりぼっちだから幸せじゃないのは当たり前のことだけど、誰かと一緒にいるのなら、まだ幸せじゃないと決めつけるのは早いでしょ?」
「……ああ」
「お兄さんは、先生のことが大切?」
「……そうだな。たとえどんなに遠くへ行ったとしても、必ず迎えに行く」
は?遠くに?
高杉は自分が言ったことに疑問を抱いた。
何で雅が遠くへ行くことを仮定している?
アイツはそばにいながらも、俺達から少し遠い存在みたいでもあるが。
(まるで告白みてーなこと言っちまったか俺…?)
アイツ厠遅ェな。
高杉は雅から預かった刀をじっくり見てみた。
「それ。先生の刀?」
「らしいが、俺も初めて見たぜ」
黒い刀。“死神”って呼ばれるアイツを暗示させるような色だ。
少し抜いてみると、きれいな刃だ。
「アンタにはやらないよ」
「!」
厠から帰ってきた雅が真後ろにいた。
「ぬわっ!黒子野みてェなことするなよ」
「私の刀に見入っていたアンタが気付かなかっただけだ」
「先生!なんかお兄さんが、先生のこと必ず迎えに行……!」
高杉は慌てて娘の両頬を片手で掴んで言葉を遮った。
「何企んでやがるクソガキ?」
年下子供に振り回されている高杉が、何だか子供っぽく見えてきた。
「アンタらいつからそんな仲良くなったの?」
子供は得意じゃないはずなのに。
「え、先生。もしかして焼き餅焼いてるの?」
この娘、さっきから怖いもの知らずだ。雅にそんな口を叩く猛者は中々いないのに。
さすが、無礼で彼女の胸を触った弟利兵衛の姉といったところだ。
「焼くんだったら世話の方がまだ有意義だ。医者は仕事柄、お節介焼きにならなきゃいけないから」