第16章 愛しさと切なさは紙一重
「どうした?」
らしくもなく呆けたような顔をしている雅に、高杉は心配して声をかけた。
これまで甘いものはそんなに食べてない。
なのに一口、口に入れた瞬間、パッと思い出した。
私は絶対に、これと同じものを食べたことがある。この味に覚えがある。
でもこの店で食べたことはない。もし来たことがあるなら、今のように思い出すはず。
この街は二度目だが、無論前回は食べてない。
じゃあ一体どこで……
『あ!せんせー!』
『よぉ。元気にしてたか?』
あれ?これって…
雅は何かを思い出しそうになり、ちょっと頭が痛くなってきて片手で抱えた。
「おい…!」
ますます心配になり、ベンチから立ち上がり雅のそばによる高杉。
少女はベンチでくつろぎながら若鮎を美味しく頂いていた。
(このお兄さん。もしかして…)
『今日はどんなお土産買ってきたの?』
『買ってくる前提かよ?ったく。まあ買ってきたから別にいいけど』
(走馬灯?)
段々と思い出してきた。家にいた私。診察から帰ってきたせんせー。手には小さなお土産箱。
『え?お魚?お菓子じゃないの?』
『お魚じゃねェ。こう見えて、中身はあんこなんだぜ。“若鮎”って言うんだ』
(“若鮎”……せんせーの…お土産!)
ここに来たことがあるのは、私じゃない!
・・・・・
愁せんせーだ!
「みや…お前、本当にどうしたんだ?」
高杉は名前を呼びそうになったが寸止めした。
「少し奥の手洗いに行ってくる。アンタ達はここで待っててくれ」
雅は腰の刀を高杉に預けて、店の奥へと行ってしまった。
(コイツと2人かよ…)
子守はあまり得意じゃない。
高杉は隣の少女になるべく目を合わせないようにそっぽ向いた。
(若鮎うめェな…甘いものは久しぶりだ。銀時がいつも食ってるところ見てるから、食べたら同族になるような気がして無意識に控えていたが……)
「ねェお兄さん。先生のお名前って何なの?」
隣の少女が目をうるうるして聞いてきた。
「…悪ィがそいつァ言えねェ。名前バレたらノートに書かれて死んじまうからアイツ」
「私は書かないよ?」