第16章 愛しさと切なさは紙一重
「自前の医療薬を使った。縫合もした。出血量も輸血が必要になるほどまでは深刻ではなかった。本当に、大丈夫だから」
雅は笑わず、真剣な眼差しを向けた。
らしくもない笑みを浮かべないということは、相手を安心させるために言っているわけじゃない。
「……分かった。てめェは医者だから俺よりもてめー分かっているからな」
「うん」
全く。どうやら私は、とんでもない刀を雇ってしまったようだ。
怪我したのがこの妖刀の仕業なら、さっきは本当にヒヤヒヤした。
まあ結果的によかった。
あのまま晋助が助けに来てなかったら、私は鉄骨の下敷きになって、即死していたかもしれない。
そしてこれは、高杉には言えないことだが…刀が刺さった経緯は……
(晋助に後ろから抱き上げられて、その衝撃で持っていた刀が鞘から抜けて、地面に倒れたはずみで手を離してしまい、横腹に刺さったと考えるのが妥当だ……)
でも、事故死するよりもまだマシだ。
自分の血が付いた刀の刃も鞘の口もきれいに拭いた。
後で聞かれたら、鉄骨の破片が刺さったと誤魔化そう。
雅の服の横腹あたりは血で汚れていた。
「これでも使え。少しは誤魔化せる」
高杉は自分が来ていた羽織を雅にあげた。
「……アンタから借りるのは2度目だな」
少し大きめだが、服の血を隠せないよりはマシだった。
雅は見たところあまり傷を痛がっていない。
やせ我慢でも無さそうだ。
(それは結構だが、まさかこんなことになるとは……)
雅を誘うはずが、アイツが冥府に誘われそうになるとァ。
さっきの鉄骨が落ちてきやがった場所は、今頃騒がれているだろうな。
(このまま黒子野のアドバイス通りに誘うか?いや、ケガ人はやっぱ家に帰すべきか?)
雅と色々話したい。でもケガしたばかりの彼女のためには、やっぱりこのまま見送るべきか。
「あれ?先生?」
見知らぬ女の子が2人に声をかけてきた。
(先生?)
「やっぱりその青い髪!先生でしょ」
雅には見覚えがあった。去年出会った、あの藍屋勘の娘だった。