第16章 愛しさと切なさは紙一重
周りにいた人達は走って逃げる彼女を目で追った。
「お、おい!雅!」
高杉はすぐに後を追う。地面に点々とついている、雅の傷口から滴り出た血の跡を頼りに。
(何で逃げるんだ?!)
訳が分からない。あんな状態で動いたら、ますます出血がヒドくなるだけだ。
明らかに様子がおかしい。一体どこに行くんだ?
自分の腕には、雅の流血がべっとり付いていた。
数分くらい走って追っかけた。
血の跡を追っていくと、さっきのような大通りのはずれの暗い抜け道に着いた。
そこには案の定、雅が座り込んでいた。
「雅!」
「!」
雅は立ち上がって、高杉と距離を取った。
やっぱり様子がおかしい。疑心暗鬼でいやがる。
「何で逃げたんだ?!そんな深手で……」
雅の横腹あたりは服の上から包帯でぐるぐる巻きにされていた。
恐らくここで応急処置をしていたのだ。
「……こんな街中で怪我して動揺してつい逃げたんだ。でも傷の方はもう塞いだ」
雅は大丈夫だと言い張るが、高杉はそうは思えなかった。
さっきの傷はそんな軽いものではなかった。
雅の血で汚れている服の染まり方を見る限り、そう断定できた。
「大丈夫のわけねェだろ。とにかく傷口見せろ」
「断る」
高杉が近付いた分、雅はさらに後ろに下がった。傷口を抑えながら。
(……コイツは滅多なことがない限り、冷静さを欠けない奴だ。なのに動揺していた。何がお前を、そんなに拒ませるんだ?)
「……アンタに、傷口を見せたくない」
は?傷口を見せたくない?
そういえばコイツ。よく考えたら戦場で傷を負うことは滅多にない。
いつも俺達を治しているが、コイツ自身が怪我することはあまりない。
「何でだ?仲間に弱みを見せるのがそんなに嫌か?そういうところは意外と強がりだったのか?」
「そういう訳じゃない。ただ……治す側の人間が治される側の人間に傷を見せたら、不安にさせるだけだ」
それは雅のポリシーでもあった。
医者である自分は、他人に傷口を決して見せてはいけない。
医者としての落ち度と恥になる。