第16章 愛しさと切なさは紙一重
このまま自分の真下に落ちれば、自分だけが怪我をする。
もし刀を使って軌道をズラして自分が回避できたとしても、軌道が変わった鉄骨は周りの人間に向かって落ちる。
刀を使うよりも、自分が動いて避ければ良かった。
戦でずっと戦っていたから、つい防衛反応で刀を握ってしまった。
そもそも、刀を一度も使ったことがないから、その切れ味もまだ知らない。鉄骨を切れるか知らなかった。
『それを持った奴は、今まで全員謎の死を遂げたんだ』
『死因はバラバラだったが、唯一の共通点が、死んだ奴全員がその刀が握っていたとさ』
これがその、“新月”の災い?
私だったら戦場で戦死するのかと思ったが、まさか手に入れたその日に事故死になるなんて……
全くツイてない。
しくじった……
ガッ!!
「!」
鉄骨が頭を強打しそうになった瞬間、後ろから誰かが抱き上げた。
え?
ガラァンッ!!
鉄骨は地面に落ちて、周りにその衝撃音が響いた。
「キャアアア!!」
通行人の叫び声も響く。
ザワザワ
さっきまでの活気が一気に緊迫した空気へと変化した。
上の方で建物の作業をしていた職人は青ざめた表情で、下の方を見ていた。
けが人は……
(え?)
雅は何で自分は地面で寝そべっているんだと疑問に思った。
確か真上から鉄骨が落ちてきて、避ける暇がなかった。
それで急に後ろから…
そして今も何故か後ろから抱きしめられている感触が…
「え…」
自分の体を包んでいる男の腕。見覚えのある袖。
「おい!無事か?!」
後ろを振り向くと、それは高杉だった。
「あ、アンタ…」
まさか、今の一瞬で私を…
晋助は見たところ怪我が無さそうだった。
しかし、
「?」
自分の横腹あたりに違和感を覚えた。
そういえば抜きかけていた刀が左手になかった。
だけどすぐに見つかった。それは…
「あ……」
寝そべった体勢のお腹の前に、地面に血溜まりができていて、それは私の横腹から流れ出たもの。
刀は横腹に突き刺さっていた。
すぐに刀を抜いて傷口を抑えたが、出血はすぐには止まらない。
「お前ケガが……!」
あ、マズい……
雅は自分を守るために覆い被さっていた高杉を振り払い、その場から逃げ出した。