第16章 愛しさと切なさは紙一重
(何とか今回も、刀が手に入ってよかったな…)
右腰に差してある刀は、なるべく周りに見えないよう隠した。
妖刀“新月”。黒い漆塗りの鞘に白い縁の鍔。
切れ味がよければ何でもよかったのだが、まさか妖刀を頂くことになるとは。
(“死なせる刀”(新月)に“死なせる神”(私)か…)
別に自分の忌み名がどうだから選んだわけではない。
たださっきも思ったが、せっかく職人が丹精込めて作った傑作なのに、忌み嫌われるなんて不憫な気がした。
赤子と同じ。生まれてくる刀に罪はない、なんて。
私は元々はみ出し者だからどうってことはないが、この刀もそうとは限らない。
(新月か……)
刀匠は何であえて、そんな名前を付けたんだろう。
桜じゃなくて、葉桜と名前を付けるようなものだ。
これは私個人の解釈だが、普通人は皆、満月の輝きに見惚れる。
しかし顔を隠した真っ暗な新月には魅せられない。
一見月が無くなったかのように思えるが、でも、それは違う。
新月とは本来、明かりの役割をする太陽が月の向こう側にあることで、地球からだと暗い部分しか見えない現象だ。
たとえ一時見えなくなっても、月はまた輝く。
段々と月は満ちて、そして再び満月になる。時が経てば徐々にその本来の形を取り戻し、また満月の輝きを取り戻す。
新しい月を形作る。
だから新月は、満月からの終わりでもあり、満月への始まりでもある。
終焉であり始まりである新月こそ、その美しさが詰まっている。
そこに妖艶の魅力が詰まっている。
※これは豆知識だが、花王の月のマーク。昔は三日月だったのだが、今は有明月になっている。
その理由は、もし三日月だと月が欠けていくようで縁起が悪いということで、有明月にしたのだと。
(そんな名前を付けた刀匠。もしかしたら酔狂な者だったのかもしれない…)
丹精込めて作り上げた刀が、私のような小娘の手に渡ったと知ったら、失望するだろうか……
ヤクザ達のように酔狂かつ寛大であれば違うかもしれんが……
「!」
上から何かが落ちてくる気配がして、上を見た。
真上を見たら、鉄骨が落ちてきた。
雅は反射的に刀に手を伸ばしたが、あるシナリオが頭によぎった。
“もし鉄骨を斬れば、斬られた部分が四方に飛び、周りの人が傷を負う”