第16章 愛しさと切なさは紙一重
黒子野は本当に大した奴だ。
さっきまでの葛藤が無くなった。アイツがいなきゃ、俺は後味の悪いまま街を徘徊していただろう。
(気付いてんのか?アイツ?)
俺が雅のことを……
高杉は雅の後を追うために人混みの道に入った。
(固執上等。周りに何て思われようと見られようが、アイツにもう一度会う。俺はただ、アイツが楽しく過ごしてくれりゃ、それでいい…)
黒子野の言う通り、ここは戦じゃねェ。ならチャンスは今しかない。
ほんの一時でもいい。アイツは“自分の責務”(医者であること)を忘れて、ただの1人の人間として、一旦その荷を下ろして欲しい。
俺はアイツに、色々と話てェこともあるからな。
高杉は街の門に向かった。
銀時達が行ったのは港町方面の南門。なら雅は、拠点方面の北門に行っているはずだとふんだ。
(アイツ小柄で旅人服を着ているからな。絶対目立つはずだ)
それに聞き忘れていたが、あの黒い刀……
雅の右腰に差してあった黒い刀を思い出した。
(一体どこで見つけたんだあんな代物?普通の鍛冶屋じゃなさそうな物だった)
何だか刀から嫌な空気を感じた。
あれは随分使いこなされた物だ。最近作られたモンじゃねェ。
リサイクルショップで掘り出し物を……?いやそれはないな。
(そういや去年もアイツ、どうやって刀手に入れたんだ…?)
そんなことを考えていたら、南門付近に着いた。
このあたりに雅がいるはずだ。
(いた…)
門まであと数歩のところにいた。危なかった。
「ねェ母上。あそこグラグラしてるよ」
「!」
すぐそばの子供の声が聞こえた。
子供が指差したところを自然と目で追った。
雅の上あたり、建物の工事で鉄材が吊されてあった。
しかしバランスが崩れ、落ちた。
真下の雅に向かって。
高杉はいつの間にか体が動いていた。
「雅ッ!!」
数分前
高杉と別れた雅は周りを警戒しながら南門に向かっていた。
ヤクザらしき男達がいれば、編み笠を深くかぶってなるべく自然に横切った。