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君想ふ夜桜《銀魂》

第16章 愛しさと切なさは紙一重



黒子野はそのことを知っていた上で、高杉の背中を押していたのだ。

それならさっき銀時達も誘うこともできたはず。

しかし黒子野は、2人のことを考えて、あえてそうしなかった。

雅は輪の中にいるより、誰かと1対1で対面している方がいい。

大人数でいれば、決まって彼女は輪の隅にいて、誰かに話しかけられたとしても、あまり乗り気じゃない。

“輪の外にいる私に気を遣わなくていい。私のことは気にせず輪の中で皆で楽しんでくれ”

彼女はいつもこう思うのだと、黒子野は分かっていた。

それに、女である自分に過剰に接触すれば、周りに誤解される。

高杉だけの話ではない。だから自分は輪の中に入らず隅にいるべきだ、と。

「黒子野……」

「じゃあ早く彼女を追ってあげてください。彼女を上手く僕達に引き込んできたのは、高杉さんなんですから」

黒子野は一礼をして、銀時達の後を追った。

高杉はこれまでの自分の行いを辿った。


全ての始まりは、あの松下村塾だった。

今の自分の侍、絆、志。全てはあの場所で得たものだ。

そこで出会った一匹狼の少女。それが雅だった。

他とは明らかに違う風貌。鋭く冷ややかな目に冷めたい表情。

あの頃の奴を言い顕すなら、人間味のない傍観者。

自分から決してこちらに近寄りもせず干渉もしない。氏も素性も隠していた。

皆より何もかもが並外れていた。

しかし、ある夜に見ちまった。雅が涙を流していたところを。

今思えば、あれで分かった気がした。

雅も、人間なんだと。

あの時見たものもその衝撃も、今でも忘れない。いや、この先も覚えているだろう。

嫌なものを見せた挙げ句全くワケも何も教えねェその態度が癪に障った。

だから勝負を挑んだ。すました顔でいやがるアイツに、少しでも必死にさせたかった。

アイツの人間らしいところを出させたかった。

その後、本気のアイツに負けた。その時は確かに悔しかったが、何だか吹っ切れた気もした。

あれ以来、アイツが俺の隣にいても、全く不快に思わなくなった。

むしろ……


何ヶ月か前、戦の後のどんちゃん騒ぎでも、じゃんけんで勝ってアイツを引き込んだこともあった。

確かに俺はらしくもなく、アイツを輪に入れたことは数度ある。

(……俺ァ…自惚れてもいいのか?)

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