第16章 愛しさと切なさは紙一重
「それに雅さんはキャリアウーマンみたいに、“自分の仕事”(医者)ばかりを考えています。ここは戦場ではないので、こういう場所と機会でしか話せないこともあるんじゃないですか?」
「ここでしか話せないこと?」
「ええ。ただの幼なじみとして、ゆっくり話せると思いますよ」
これほど、黒子野を頼りになると思うのは初めてかもしれない。
言っていることは正しく、ちゃんと雅のことを考えている。
確かに、ここでしか掴めないチャンスがあるかもしれない。
「……お前は雅のためを思って言ってるのか?」
「それだけじゃありません。高杉さんのためでもありますよ」
黒子野は笑顔を浮かべた。
「最近、雅さんと何やら揉めてなかったですか?」
「!!」
「その驚いた様子ですと、やっぱりあったんですね」
高杉は雅のこととなると、戦の時のような冷静さを乱し、本音を隠せなくなる。
黒子野はそんな彼を見透かしていた。今までずっと。
「僕はお二人に、戦友以前に今は幼なじみとして、楽しく過ごして欲しいだけなんです」
高杉は鬼兵隊総督として、隊士たちを導く義務がある。
雅は軍医として、皆の傷を治す義務がある。
そんな中では、たとえ話す時間ができても、戦のことばかりを気にしてしまい、その話ばかりになってしまう。
幼なじみなら、もっと楽しい会話もあるはず。
2人には一旦、自分の責務を忘れてもらい、ただの人間として、お互いに本音で語り合う時間を過ごして欲しい。
雅はひときわ、談話をしないタイプだから、チャンスは今しかない。
2人きりでしかも戦場ではないここなら、会話をせざるを得なくなるはず。
街の活気というのは人へと移るものだ。
街が活気ならそこにいる人達は自然と元気になり、途中から来た流れ者でも、その人の元気を貰うことができる。
戦という過酷で辛い気持ちばかりになる場所とは相反するこの場所なら、きっと彼女も自然と元気になれるはず。
「あとお店の人に聞いたんですけど、この街で今夜祭りがあるらしいです。そこに雅さんを誘ってみてはどうですか?」