第16章 愛しさと切なさは紙一重
(黒子野……)
人目がつかないように、人払いを引き受けたのだ。
雅がここを立ち去ってから、まだ数分しか経っていない。
それならまだ、この街の入り口門には到達していないはず。
走っていけば彼女に追いつける。
知り合いのいない街なら、何の遠慮もせず、緊張もせず彼女をエスコートできる。
黒子野はそこまで計算していた。
「用事?。!。あ、ああ…もしかして、雅へのプレゼントのことか?」
桂は、鰻屋で皆と話したことを思い出した。
日頃のお礼を兼ねて、彼女にプレゼントしようと。
「確かに、銀時と坂本のセンスに信用は置けんが、お前ならまだマシな物を選べるな」
「何じゃズラ?立案者にその言い草はないじゃろう?」
「ズラじゃない桂だ」
「俺は雅の好みなんて知らねェし、そもそも好みがねーかもしんねーから何でもいいと思うが…まぁ任せらァ」
この街に残る口実ができ、皆は港町へ夕食の仕入れに行くことになった。
人の心が掴める商人上手の坂本なら、きっと上手い魚とカモが釣れる。
(まさかこんなあっさり事が進むとァ。黒子野…何て奴だ…)
銀時達は黒子野よりも先に港町へ向かった。
「これで多分大丈夫です。他の皆にも声をかけておくので、これで2人でいられますよ」
「……何で俺なんだ?お前が雅を誘うことは考えねェのか?」
「……高杉さんは雅さんのことをいつもよく気にかけていますし、あの人と一緒にいるとき、何だかとても楽しそうですよね」
!
黒子野に見切られていたことにすごく驚いたが、次の言葉でさらに驚くことになった。
「それに高杉さんは気付いていないかもしれませんが、雅さんも、高杉さんといる時が一番楽しそうですよ」
!!
は?アイツが…?
人に言われて初めて自覚することもあるのは知っている。
しかし、いつもつまらなさそうなアイツが、まさか……
そんなことが…
動悸。動揺。疑問。優越感。
色んなもので頭がいっぱいになった。