第16章 愛しさと切なさは紙一重
「ぬわっ!い、いつの間にいやがった!?」
「最初からです。雅さんのこと誘っていましたよね?」
2人でいるのを見られるのはマズいと言ってた最中、まさかのすでに見られていたとは。
「盗み聞き。いや盗み見か?意外と趣味が悪ィな」
「すいません。雅さんのプライベートを見たことがなかったのでつい」
黒子野がやけにいつもよりにこにこ笑顔でいるのが、なんか腹が立った。
幼なじみで仲を深めていて微笑ましい絵だとでも思ってたに違いない。
「雅さんはお手洗いに行ったんですか?」
「帰ったんだ」
「じゃあ断られたんですか……残念ですね」
(コイツ……俺が振られたことを知っておいてワザと聞いてんのか?)
親友みたいな奴だから多めにみるが、他の奴だったら殴ってたかもな。
「でも、いつもの高杉さんなら、雅さんを意地でも誘うはずですが」
「お前は今まで俺がそんなジャイアンな性格に見えていたのか?」
「いえ。ただ、雅さんには高杉さんが必要だと思うんです」
!!
黒子野は今みたいに他人にちょっとしたちょっかいはするものの、けなしたり馬鹿にすることはしない。
真面目で裏表のない性格だ。言うことも必ず意味がある。
だから高杉は黒子野の言うことにはちゃんと耳を傾けてきた。
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「アイツに俺が必要だと?」
「ええ。雅さんはいつも独りで、誰かと一緒にいることを拒みます。どうしてそんな拒むのかは知りませんが、少なくとも僕が分かるのは、今の雅さんに必要なことは“機会”ですよ」
帰ったとしても、彼女のことだからきっと予備の治療薬を作ったり、患者の診察や刀の稽古でもするのだろう。
たとえ彼女がそうしたくても、周りの皆は雅がそんな根を詰めるのは望んでいない。
山で食らった毒で死にかけたこともあるし。
「雅さんを息抜きさせるには、独りよりも誰かがそばにいて楽しむ方がいいです。それで高杉さんは一番の適役だと思います」
「本気で言ってんのか?」
俺じゃなくて、そうやって気配りできるてめェが一番適役なんじゃねぇか?
「ええ。男子じゃなくて女子と遊んだ方がいいとは思いますが、雅さんの周りに親しい女友達なんていますか?」
確かに。