第15章 金では得られないモノもある
「名前は何ていうの?」
「俺か?俺は……」
「いやアナタではない。この刀だ。その村田仁鉄という刀匠がうったほどの刀なら、名前はあると思って」
「名は、“新月”だ」
「“新月”?」
「鍔をよく見てみな」
見てみると、鍔のデザインが少し特殊だった。
黒い円形だが縁は白かった。
(確かに“新月”だ)
この刀の鞘や柄、全体が黒いのは夜空を表し、この鍔の縁の白は姿を隠した月ということか。
なるほど。さすがは江戸一の刀匠。刃ももちろんだが、全てが美しい。
(人を死なせる刀か……なら、私と同じだ)
私は人を死に追いやる“死神”と呼ばれてる。
つまりこの刀は、私と一緒だ。
類は友を呼ぶ。ここで会ったのは何かの縁かもしれない。
「おいお前さん。その刀を選ぶのか?」
雅の満足そうな顔を見て、店主は聞く。
「死んだ人たちの共通点は、この刀を持っていたって言いましたよね」
「ああ。周りには呪われる刀と呼ばれている。だから…」
「私はいつ死ぬか分からない。その時、果たしてそばに誰かがいるのか、それとも独りなのかも分からない。だが少なくとも、死の床で、刀がそばにいてくれるのは心強い」
『……』
黒い刀、名を“新月”。雅はそれが気に入った。
(それにせっかく生まれてきたのに、呪われていると揶揄されて使われないなんて可哀想だ)
せっかく刀として生まれたのに、その存在であることもできない。
(呪われる剣って言ってたな。だったら
・・
元々呪われている奴はどうなるか……)
私がこれを持つことで、それが分かる。
「これを頂けますか?」
「……」
店主は止めておけともう一度忠告しようとしたが、雅の真っ直ぐな目を見てたらできなかった。
(このお方なら、刀も主人と認めるやもしれん)
刀が今まで持ち主を殺したのは、主人と認めなかったからだと噂されている。
女の身でありながら、その強い魂を持ち、何にも縛られることのない者。
けったいな刀には、けったいな人が、酔狂人が持つものか。
店主は雅に刀を譲ることにした。