第15章 金では得られないモノもある
新しい刀も手に入れて、指を切断された患者の治療も終わった。
これで用事は全て済ませた。
最後に組長とその下のヤクザ達に別れの挨拶をした。
「先生。今まで本当にありがとう。感謝する」
「いえ、アナタがいなければ、私は刀を手に入れることはできませんでした」
あと皮肉なことだが、もし藍屋勘がヤクザ達と接触していなかったら、助けに入ることもなく、息子の利兵衛も救うこともできず、陣羽織も手に入らなかったかもしれない。
「お前さんのようなできた奴はそうそういまい。正直、お前さんのような者が孫娘だったらな、なんて思ってしまったわい」
「ハァ……孫娘、ですか…」
雅はこういう親密な者同士でやる話は苦手だ。
「では、お前さんの健闘を祈る。ああ!言い忘れていた!」
「!」
「最近、別の組のモンがうちのシマの周りを彷徨いてる。恐らく、ずっと姿を現さなかったワシがピンピンしているのを不審に思ってるんじゃろう」
「……それに気を付けろってことですか」
雅は朝通った道を思い出した。
確かに去年と比べると、ヤクザ達が増えていたような気が……
「もし必要であれば護衛をつけるが」
「いや、それだと余計に目立って、また新たな被害者が出るかもしれない。私独りで大丈夫です。声でもかけられたらごまかします」
「そうか……」
雅は組長に一礼し、その場を去った。
もうここに来ることはないだろう。
だが、有意義だった。まさしく、情けは人のためならずだった。
助け合いが時に、お金よりも価値あるものを生み出す。
雅は新月を右腰に差して、そう思っていた。
そして現在。
「じゃあ何か?ヤクザを助けて目を付けられたってわけか?」
高杉はちょうど雅から事の顛末を聞き終えた。
「……ヤクザ流のナンパみたいなものだったよ。簡単に言うと」
「いや違ェよ。明らかに命狙われてただろ」
「でももうその心配はない。用が済んだから、私は帰る。お芝居に付き合わせて悪かったな」
編み笠を被って高杉に背を向けたが、高杉は雅の腕を掴んで止めた。
「待てよ。せっかくだから一緒に回らねェか?」
「!」