第15章 金では得られないモノもある
「急かすようで申し訳ないが、今回もアンタの自慢の商売品を見せて欲しい」
「ああ。つまらない話をして悪かったな」
(こっちも、頭を見てしまって悪かった…)
店の主人は岩壁に飾ってある刀一式を一つ一つ紹介してくれた。
雅はそれらの中で、どれが一番自分に合うか見極めた。
(ん?あれは…)
飾られているのではなく、壁に立てかけて置いてあった1本の刀があった。
蚊帳の外みたいに。
刀の間でいじめでも起きて、隅っこで泣いているのか?
店主は人ももちろん刀をいじめるような性分じゃないはずだ。
雅はそれを手に取ってみた。
「ご主人。これは…?」
「それは…“妖刀”だ……」
妖刀?
刀の鞘は美しい黒の漆塗り。
抜いてみると、それはきれいな箱乱刃。
直刃のよう真っ直ぐではない、不安定な乱れ模様。
少し心電図のようにも見えた。
「……中々切れそうな刀だけど、左遷された理由は何?」
会社内で不倫したサラリーマンみたいに不祥事を起こしたのか。
刀の場合、自分で持ち主を斬ったとか。
「それを持った奴は、今まで全員謎の死を遂げたんだ」
予想が微妙にあたった。
「……つまり、持ち主が死んだ理由を刀にしたのか。可哀想な話だ」
「だが、その刀はやめといた方がいいと思うぜ先生。前の持ち主が、刀が薄気味悪ィなどぬかしてタダでくれたんだが」
前はこの刀も壁に飾っていたのだが、朝起きたら決まって床に落ちていた。
それが不気味に思い、仕方なく隅に立てかけたらしい。
「だが、貰ったときはびっくりしたぜ。なんせその刀は、あの誰もが知る江戸一の刀匠、村田仁鉄がうった刀だから」
「村田仁鉄?!」
ヤクザで冷静さを欠けない頭は、声を出すほどびっくりした。
「そんな人がうった刀となりゃ、浪士や旦那のようなヤクザ達は黙っちゃいねェ。あらゆる奴らはソイツのとんでもねェ切れ味に心を踊らせたが、全員がぽっくり死んじまった。死因はバラバラだったが、唯一の共通点が、死んだ奴全員がその刀が握っていたとさ。だから誰も手をつけなくなってここに来たってわけさ」
雅は刀を鞘から抜いて軽く振ってみた。
以前よりさらに使い勝手が良かった。