第15章 金では得られないモノもある
雅は無意識に左手をグッと握りしめた。
・・
「それと似たような物を、アンタと同じ手の甲にしていた奴を見たことがある奴がいた」
「言った奴は誰?」
「うちの組のモンの遠い親戚の婆さんだ」
去年、雅に調べるように頼まれた頭は、まず組内の人間にあたってみた。
四方八方回って探すよりも、灯台下暗しで意外と近くに知る者がいるかもしれないと勘が働いたのだった。
雅が見せたものを写生して、同じ階級の頭から下っ端まであたった。
するとなんといたのだ。見たことがある奴を。
「じゃあ、似たような物をしていた奴っていうのは、誰?」
「それが、婆さんが20とか若い頃、つまり60年くらい前、看板娘として店で働いていた時に、客の手の甲にあったと。俺が直接確認したが、顔とかはあまり覚えてなかったとよ。分かったのはソイツが若ェ男だったってことだ」
「……そうか」
シワが増えれば物忘れも多くなる。
半世紀以上も昔のこととなれば逆に、店に訪れる数え切れないくらいの、しかもどこからきたのかも分からない客の1人の手の甲を覚えている方が珍しい。
「その教えてくれた人、今どこにいるの?」
会って直接話をしたい。
「残念だが、もうこの世にはいない。年老いて死にかけていた所、間一髪聞けたんだ」
え?そんなやばい状況の中で聞き出したのか。
何だかすっごい申し訳ない気がしてきた。
死に際なのに家族じゃない怖そうなお兄さんが紙を見せて「これに見覚えはないか?」と問い詰める絵を思い浮かべたら……
その怖い面が頭から離れなくて、安らかに眠れなかったかもしれない…
「ご、ごめんなさい。そんな一大事な修羅場になってたなんて」
「いや大丈夫だ。その奥方も、先代の組長の女だったから、肝もアンタと負けないくらい図太かったお人だ。逆に喜んでたぜ」
まさかのその人もヤクザだったのかい。
「昔は特に美人な看板娘として有名だったらしくて、そこで昔の組長がベタぼれしたらしくてな。見た目は強男だったのに、意外とロマンチストだったってわけよ」
そうだったのか。
雅は薄々、話が本題から離れていくのが少し気にしていた。