第15章 金では得られないモノもある
使うのはメス、ピン、ルーペ、トレイなどだ。
今回は指の神経をつなぐ必要があるから、失敗すれば男の指は一生動かなくなる。
手術がしやすいように男を寝かせた。
ゴム手袋をしてピンで切り離された指を男の右手の1本1本をつなぎ始めた。
ルーペで傷口の表面を拡大して、神経や骨の位置をずらさないよう縫合する。
自分の指が小さく細いおかげで、メスを精密に動かすことができる。
指は母親似で良かったと、ふと思った。
全ての指が繋がり、雅の手術は終わった。
それもたったの25分で終わらせ、驚異のスピードだ。
「お、おい。大丈夫か?」
「あ、ああ……腕の感覚が、無ェ」
患者の部分麻酔が切れるにはまだ時間がかかるが、徐々に元に戻る。
「そ、それで先生!コイツの指は…!?」
「神経を元通りに繋いだから、このまま順調に回復すれば治る。抜糸をする頃には、ちゃんと動かすことができる見込みも十分にある」
(す、すごい…)
手術を全て見ていた新入りのヤクザは、声が出ないほどその腕に驚いた。
こんなに躊躇いもなく人の体を切るなんて。
刀で人を切る侍とは別に、同じ刃物で人を救う医者がいるとは。
(俺が見てきたのは、漢方薬医や儒医やお百度参りくれェだ。こんな人の体を切って逆に救うなんて……なんてお方だ)
組長が心底信頼する理由が分かった気がした。
その組長は雅の手厚い治療と再び救ってくれたことに感謝し頭を下げた。
「これで刀の前払いは済んだかな?組長殿」
「いいや、むしろ釣りが出るくらいだ」
麻酔が切れて男の容態が安定してもう大丈夫になってから、雅は頭に再びあの場所へ案内された。
一年ぶりに出向く、あの闇市場だ。
(懐かしいな…)
一度だけ来たきりだったが、郷愁のようなもの感じた。
あの時は、再び医者になるのを決意したばかりだったから、そこらへんの記憶が鮮明に残っているからだろうか。
「じゃ先生。また案内させてもらうぜ」
「ああ。頼むよ」
雅は背中を追いながら、周りに聞こえないようボソッと聞いた。
・・・・・・・
「で、何か分かったか?」
「……ああ、情報が入った」