第15章 金では得られないモノもある
「……お前は女だから、今のご時世けったいに見られる。そりゃ怪しまれないよう身分を隠すのも無理はないか」
「……それもあります。ですが、私は幕府に仕える気なんてありません」
「ほう。なぜだ?」
「国から護るべきものと国よりも護るべきものが、あるからです」
ダァンッ!
『!!』
襖が勢いよく開けられる音と、ヤクザ達が駆け込んできた。
組長が話をしている時にこんな割り込むのは失礼に値する。
しかしそんなことを気にする場合ではなかったのだ。彼らは。
「頭ァ!!大変です!」
後ろの方の仲間の肩に、ぐったりしている奴がいた。
(あれは…!)
雅はすぐに気づいた。その男の異変を。
(右手の指がない!)
正座からすぐに立ち上がって、男の容態を見た。
意識はあるようだが、右手の親指から小指まで全部が無くなっていた。
「何があったの?」
「情報を引き渡せと言われたのを断ったら、ナイフで…」
話を聞くと、別の組にやられたらしい。
一年前、ここの組長は危篤状態で姿がめっきりなく、組自体も衰退の一途を辿っていた。
察しのいい他の組は、その組の組長はほぼ間違いなく命の危機に瀕していて近いうちに潰れることを予期していた。
しかし、雅が助けたことで組は再びかつての猛威を取り戻した。
“何故、死にかけていたのに復活した?”
その理由を聞き出そうと強引な手を使った結果がこれだ。
雅は指の傷をよく見た。
「ど、どうなんですかい?」
「……この人の切られた指の部分。持っている?」
仲間の1人がハンカチで包んだそれを持ってきた。
・・・
切られたばかりなら、いける
「…今から繋げよう」
『!!』
雅は一年前のように、風呂敷から医療道具を畳の上にサーッと広げた。
周りのヤクザ達はそれを見守った。
「な、何をするんですかい兄貴?」
「黙って見てろ。これからてめーが見れるのは、死んでも二度と拝むことのできねェ、神の手だ」
去年の出来事を知らない入ったばかりの新人とその兄貴は端でそんな会話をしていた。
(あの女性が切り離された指を治すってのかい??)
雅はまずは、傷の表面を止血してから、麻酔薬を投与した。
今回は指の部分だけだから、全身麻酔ではなく局所麻酔だ。