第15章 金では得られないモノもある
「お酒と食事は、過剰でなければ問題ないです。アナタ方の仕事柄だと節制は難しいかもしれませんが」
「そうだな。可愛い舎弟共のためにも頑張らんとな」
雅と組長はすっかり友好関係を築いていた。
あれから数度訪問を重ねて、組長は雅のことをますます気に入った。
普通の男でも兼ね備えてないその度胸や冷静さ。
何より、目の前にすると畏怖するその強い意に反した、美しい色をしたその翡翠色の目も気に入っていた。
「もう病の心配がないなら、お前さんはもうここには来ないということか」
「……はい」
治療は終わった。あと専念するのは戦とその仲間の治療だ。
「なら最後は今まで以上に礼をしたい。何か欲しいものはあるか?」
「……実は相談があります」
雅は頂いた刀を折ってしまったことを謝り、そして新しい刀を探していることを伝えた。
「そうかそうか。刀を折るほどの死闘をしたのか。それより先生が無事でよかった」
「私が無事でいられたのは仲間のおかげでもあります。だからそのためにまた刀が必要なんです」
「分かった。また手配しよう。その前に一つ聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
刀を譲ってくれるくらいだから、質問はできるだけ受け答えようと思っていた。
「お前さんは、それほどの医術を持ちながら、なぜ国のために使わないんだ?幕府に認められれば、間違いなくお前は歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げられるだろう?」
「……」
何でか?
理由は数多くあった。その一つ一つ頭の中で思い浮かべた。
1つ。松陽の存在を否定し、その身柄を拘束した幕府の元に行きたいなんて思わない。
2つ。この医術は、せんせーから預けていただいた物だ。私が勝手に誰かに譲る訳にはいかない。特に、国なんかには。
3つ。国は私の両親を罪人にした。たとえ両親が一族の裏切り行為で非があったとしても、両親の死を肯定できない。
4つ。それで私は罪人の子。国に知られるわけにはいかない。
5つ。幕府は、奈落を使って私とせんせーを引き離した。それが許せないからだ。
(せんせーは何も教えてくれなかった。でも少なくとも、せんせーにとっても、幕府は決して味方ではないことは確かだった)