第5章 人は皆 十人十色
「そういや、今日は戦に出るんじゃな」
「ああ…あくまで負傷者の治療が優先で」
辰馬は愉しげな顔から悩ましげな顔に変わった。
「正直言うとじゃ、わしもおまんの出陣はあまり賛成できんの」
そうか。その話か…
雅も苦い顔になり、気分を悪くした。
「…桂にも、同じことをよく言われるよ」
女が差別的な見方をされるのはこのご時世、当たり前みたいなもの
辰馬が私を差別するわけないが…
「軍医のおまんがいなければ、死者はバッと増え全滅じゃき。この戦もとうに負けちょる。
わしらが今まで生き残れたのは、おまんがいたからこそじゃ」
辰馬はさっきも、ヅラが私を心配してると言ったが
(アンタ、人のこと言えないじゃん…)
けど…それでも…
「実際そうだとしても、特別扱いされるのは好きじゃないよ」
雅にも侍としての意地やプライドがある。
「私は銀たちと目的は同じだ。にも関わらず1人お留守番で決して戦場に出ないのは嫌なんだ。
私の出来ることは、傷を治すだけじゃない。アンタも知ってるはず」
私は“あの時”とは違う……
長く戦に出てないと腕も鈍る
自惚れてる訳ではないが、刀にもある程度は自信もある
辰馬は首を振り、またいつもの笑みを浮かべた。
「おまんもわしらにとってみれば、立派な大将じゃ。どんな戦も大将がとられれば負ける。銀時やヅラ、高杉、おまんも一緒じゃ」
(!)
“大将”
辰馬は私を“そう”思ってるの?
長話をしてると、次第に周りは明るくなり、鳥の鳴き声も自然と聞こえるようになった。
(そろそろ朝食の時間かの?)
辰馬もきりのいいところで、最後にこれだけ伝えた。
「それにわしァは雅が作るおにぎりがたまらなく好きじゃ。それが食べれなくなると思うと、死にきれんぜよ」
何それ?
いつもそんなこと考えて戦っているの?
「とにかくおまんは戦や皆のために、死んじゃいけんっちゅうことを忘れんことだ」
最後も豪快に笑い、その場を離れていった。
(…アンタも 相変わらずだ…)
“おまんも立派な大将じゃ”
そう言ってくれるのは、お調子者のアンタくらいかもしれないな…
そして、松下村塾の塾生じゃない…
雅もそのまま、寺に戻った。
少し離れた場所に、桂は壁に寄りかかって今までの話を聞いてた。