第5章 人は皆 十人十色
辰馬はリンゴを頬張った。
「そういえば、ずっと前から気になってたんじゃが…」
少し間を空けてから聞いてきた。
「すまんのう。その前にタオル貸してくれない?」
え、結局何しに来たんだ?
さっきから何故、顔面濡れたままなのかと疑問に思ってたが
私は手元にあったタオルを投げ渡した。
辰馬は受け取り、拭き残しがないよう顔面をしっかり拭いた。
「ふぅ。それで話というのはな、おまんさんのことじゃ」
私?
「ヅラも言っとったんじゃが、おまんなかなか笑わないじゃろ」
「……」
雅は辰馬とは正反対で、冷淡である。
彼女なりにツッコミやボケはやるが、表情も冷たく感情も豊かではない。
「私は多分、そういう面は他人より乏しいのかもしれない」
本人も自覚はしてるらしい。
「なるほど。ま、だからどうしろとは言わん。性格は人それぞれじゃ。皆違う色を帯びとるからの」
「色?」
私は“色”という言葉にやけに惹かれた
「同じ人間でも持っとる色はそれぞれじゃ。人には違う短所も長所もある」
辰馬の話を聞いて、思うことがある
その話は一見、楽観的で大したことではなさそうであるが、それは時には奥深く、人の心も動かせそうな力を持ってるかもしれないと
“商人”(サギ師)だから話上手ってこと
(脳天気バカって言ったこと取り消すか…)
「じゃから、ぶつかり合い喧嘩になることもある。それでも酒を酌み交わし、分かり合えることもある。ようするに、十人十色じゃ」
十人十色…
よく聞く言葉だ。確か、意味は
“人によって様々な異なる性質がある”
“喧嘩”と聞くと、銀と晋助のことを思い浮かべる…
アイツららしいっちゃらしいが…
「どちらにせよ、わしが昨日見たのは黙っとく。ヅラが焼き餅妬くかも知れんからの~」
「ヅラが?」
「知らんと思うが、アイツおまんのこといつも気にかけて。おまんが戦に出る日も、いっつもそわそわしちょうて」
他人のことを平気に笑いながらペラペラ喋るお調子者
(やっぱりバカだ…)
「ヅラがおまんを心配してるのも、気ィあるのは確かぜよ」
「………」
確かに、初めは周りにこの戦の参加に反対されてた
百歩譲って医療だけならともかく、戦力として戦場に出るのには断固拒否されてた…
(特に小太郎には…)