第15章 金では得られないモノもある
「はァ?ソイツが旦那?」
「そうだ。人の物を勝手に手を出すなんて卑俗なもんじゃないかな?」
雅は高杉の方を抱き寄せた。
当の本人高杉は、話が全く見えなかった。
この人ってどいつのことなんだ?と、根本から理解が出来なかった。
雅は二歩ほど前に出て、その場でしゃがんでからまた立って、また下がった。
「じゃあそのおじきにこう伝えておいて。『ナンパなら他を当たれ。そして誘う相手は選んだ方がいい』と」
高杉の手首を掴んで立ち去ろうとしたが、ヤクザ達はそうはさせない。
「ふざけるなァ!」
訳の分からない理論を立てられて立腹し、こちらに走ってきた。
高杉は鞘から刀を抜こうとしたが、雅がそれを止めた。
チクンッ
『!!』
突然、ヤクザ達は急に足が痛いと苦しみだして、その場を転げ回った。
「痛ッッェ!」
(な、何が起きてんだ?)
「雅。一体何を……」
「改良した麻酔薬入りの針を地面に仕込んで、コイツらが勝手に踏んだだけだ。あのまま大人しく帰れば、踏まなかっただろうに」
ヤクザ達は麻酔薬ですでにもう意識を失っていた。
「一生眠ることになるよりかはマシだろう…」
高杉は久しぶりに見た気がした。
雅が“死神と言われる理由を。
術の速さ。冷静さ。躊躇の無さ。冷ややかな無表情さ。それらが普通の人間の物とは違う。
そんな雅を見ていると、いつか本当の死神になってしまうような気が……
「ていうかお前、さっきの“旦那”って、どういうことだ?」
「……すまん。そう言えば諦めてくれるかと思って、アンタが嫌いな嘘を付いた」
いや。嫌いではなかったが……
高杉の本心では、この嘘だけは決して嫌いじゃなかった。
「とにかく説明しろ。何でてめェはあんな奴らに…」
「……」
それは、今日の朝に遡る。
朝
街は寝起きのように、昼のような活気はまだ無い。
ぼちぼち職人達が朝の散歩をしている道中で、1人変わった者がいた。
旅人風の衣装の若い女。編み笠で顔を隠していた。
(何だ。変わった余所モンだな)
通り過ぎる誰もが目で追った。
女は“closed”と書いてある板を吊したとあるバーの前に立った。