第15章 金では得られないモノもある
チャキ
鞘から刀を抜いた。
(左利き…?)
雅は刀を振りかざして、竹を斜め斬りにした。
ズバァン!
斬られた竹は崩れて、笹の歯はひらひらと舞い地面に落ちた。
(いい刀だ。使いやすいししっくりくる)
「ご主人。この刀を頂戴したい。いかほどかな?」
「いえ、代金はすでに頭から頂きましたよ」
雅が懐から巾着を取り出すよりも先に主人が言った。
「でも、買うのは私ですし、貰うなんて…」
いい店を紹介してくれただけでもありがたいのに。
「組長もいっただろう。恩はやられたらやり返す。倍返しだと」
(そんな半沢直樹風に言われた覚えはないが…)
「お前が受け取ってくれなきゃ、納得がいかない。これは俺達なりのアンタへの敬意だ。だから受け取れ」
主人は刀を雅に差し出した。
「……確かに、頂いた」
雅は刀を受け取った。
「まいど。また来てな」
主人にお見送りされ、頭は雅を闇市場の出口へ先導した。
「そういや、組長はもう大丈夫と言ってもいいのか?」
頭は組長の病は完治してもう案ずることはないのかと雅に聞いた。
「組長を苦しめていた元凶となる腫瘍は全て取り除いた。運良くそれは良性腫瘍。転移することはないから、もう大丈夫だ」
「そうか……本当に恩に着る。アンタがヤクザの俺の話に耳を傾けてくれた寛大な心があったから、俺達のおじきは助かった」
「……」
そして出口に到着した。
雅は、闇市場まで利用してようやく手に入れた刀の柄に手を置いて思った。
今回、自分がしたことは世間では“悪行”だ。
ヤクザに手を貸して、そして違法の闇市場を使った。
でも、後悔はしていない。たとえヤクザでも、人の命であることに変わりない。
それにこれから先、戦に勝つためにあらゆる手段を尽くすだろう。
今回がまさにそうだ。なら、きれいなままでいられない。
いや、元からこの手は無数の血で汚れきっていて、自分のエゴのせいで母を救えなかった無能な手だ。
(こんな手で救ったとしても、感謝されて素直に「どういたしまして」と言えないな…)