第15章 金では得られないモノもある
「お!おおう!珍しいな旦那」
刀屋の主人が両手をスリスリ合わせて、ごまをすった。
どうやら頭はこの店の常連で、主人と良い関係らしい。
「しかもおなご連れとは。色男には女が集まって羨ましいな」
「そんなんじゃない。このお方は俺達の恩人なんだ。無礼に扱っては困る」
主人はすぐに態度を変えた。
「それは失礼した。あなた様がこの頭達を助けて下さったおかげで、うちの商売も護られたようなもんだな」
雅はさっきから丁重にもてなされることで、違和感極まりなかった。
昨日は殴られたくらい反感を買ったのに、今日は逆にこんな。
「……」
「では、そのお方がお客さんかな?」
「ああ。この方に上等な刀を」
主人は雅たちを、店のさらに奥の部屋に連れて行った。
店頭に飾られている刀とは別の物が、奥に収納されているのだ。
普通の客には売れないくらい、上等な品が。
「こちらです」
そこは壁が岩でできた洞穴のような部屋だった。
岩壁には数本の刀が飾ってあった。
一目見ただけで、店頭の物とは物が違うことが分かる。
(こんな物が、闇市場に流れているとは……)
“表”だったら、普通の刀どころかナマクラさえ売ってくれない。
だから非常に助かる。しかも、こんな高価な品を手配してもらって。
「どうぞお好きな品を選んでくだせェ」
雅はその中で1本の刀に目を付けて、鞘を抜いてみた。
(切れ味は申し分なさそうだ)
「お目が高い。それはかなりのモンだ。切れ味が良すぎて、斬られた奴が気付くのは死んだ後って言われてる」
(それはつまり、斬られたことに気付かず死ぬってことか?)
主人は話し上手にやっているが、物を見れば嘘でもないことは分かる。
「試し斬り、してもよろしいか?」
「そうだなー。じゃあそこに生えている竹でも斬っていいよ」
主人は指さした。
(何でこんなところに竹が生えているんだ?ここで七夕でもやっているのか?)
1ヶ月ちょっとで七夕があるのに、斬ってもいいのか?
「あー大丈夫大丈夫。ここらへんたけのこがよく生えてくるから、竹なんてムダ毛みたいに無駄に生えてくるよ。俺の頭はもう生えてこねェが」
主人は頭に縛っていた手拭いを取って、己のハゲさを嘆いた。
雅はそれをガン無視した。