第15章 金では得られないモノもある
「いえ。恩賞なんてそんな……」
感謝されたくて助けた訳ではないし。
「ワシは組に泥を塗る奴らを何の慈悲もなしに叩き潰してきた。だが、助けてもらった恩は、その倍くらい返すのがワシのルールじゃ。命の恩人ならなおさらだ」
他のヤクザも、組長の言うことにうんうんと頷いた。
「それか、怖いもの知らずそうなお前さんでも、ヤクザから礼を貰うのは怖いか?」
(はい。貰ったことがないので何か抵抗があります…)
ご近所から野菜をお裾分けしてもらうのとは訳が違う。
札束か名のある賞金首の生首を贈呈されるかもしれない。
見慣れている生首ならまだいいが、札束なんて貰ったら、何だか金に貪欲な医者になってしまいそうで嫌だ。
(私の“せんせー”は、金に全く無欲なお方だったからな。貧困者からは絶対に取らないし、取るとしてもお金にまだ余裕がある人で、しかも雀の涙くらい。生活に困らない最小限で)
そのお金でよく“せんせー”と団子屋で団子を食べたのは思い出だ。
せんせーの僅かなお金であんなに甘い物をせがんだ自分が、今思えば恥ずかしくなるな。
『すいませーん!みたらしもう一本ください!』
『おい。そんなに食ったら虫歯になるだろ』
『いいじゃん!甘い物好きは女の子の特権なんだよ』
『てめェの母さんにお前のこと任されてんだ。お前に何かあったら俺がどやされんだよ』
『じゃ内緒にすればいいじゃん』
『分かった。じゃあ帰ったら甘い物食べた分ちゃんとピーマンも食べるんだぞ。そうすりゃ黙ってやる』
『ああ!卑怯者!』
でも今は甘い物は、あまり食べなくなった。
だって食べたら時々、愁せんせーと過ごした日々を思い出してしまうから。
「どうした?何を呆けている?」
「!」
雅が神妙な顔でずっと黙り込んでいたのを気にかかった。
「……いえ。とにかく礼なんてそんな」
「じゃあお前さんの今欲しい物は何だ?お前さんはその身なりにその若さ故に、物を買うのも大変じゃろう。その道具だってそうだったんじゃないか?」
「……」
この組長は、今までの彼女のことをよく分かっている。
自分達もヤクザが故に、身分を隠して生活をすることもある。
同じ穴の狢といったところだ。組長は同類意識が芽生え、彼女の力になりたいと強く思い始めた。
「……刀ってありますか?」