第15章 金では得られないモノもある
ヤクザの世界にいれば、いつ死んでもおかしくはない。
ヤクザ同士の勢力争いで、何人も死ぬことがある。
その中でも組長が亡くなれば、その影響の波は計り知れない。
ほかの組にとって、敵の親玉がいなくなれば好都合だ。
だが、親玉を失った組は、その後は…
殺すぞ宣言をされても尚、雅は全く動揺することなく、たった一言だけを断った。
「……殺すなら、救えなかった後にして」
雅はようやく組長の元に案内された。
彼は白い布団で横たわっていて、意識はなかった。
雅は風呂敷から道具を広げて、一通り診察をした。
「……かなり弱っている。今すぐ手術する必要がある」
周りの若いヤクザ達がその言葉を聞いた途端、ザワザワし始めた。
この女が言うことは、本当に信用していいものなのかと、まだ疑う者もいた。
「この部屋で私一人で行う。他の人は外で待って」
『!』
周りは一斉に立ち上がって、雅に抗議の声を上げた。
「ふざけるなァ!俺達の目を盗んで一体何するんだこのアマァ!!」
「頭ァ!その女!殺しを隠蔽するに違いねェぜ!」
「他の組の者なら、組長殺す動機にも…!」
「黙らんかいッ!!この阿呆ども!!」
頭の一喝で空気は一瞬にして無音に変わった。
「この女は組長を救えなかったら死ぬ覚悟もある。そんぐらい自分の責務に誇りがあるということだ。それは、お前達も同じだろう」
自分達はヤクザ。しかしそれに誇りを持っている。周りになんといわれようとも。
雅が、たとえ存在を否定されても、人を救うことを諦めないのと同じだ。
『……』
ヤクザたちは黙り込んだ。
「騒がしてすまない。なら俺達に出来ることはあるか?」
「……いや、外で待っているだけでいい。それと、このことは極秘扱いにしてくれ。今後のことを考えて、私の存在が明るみになるのは避けたい」
戦前に有名人になって、戦場でサインでもねだられたら困る。
なんてことは雅は考えず、ただ幕府に自分の存在をあまり悟られたくないと思っていた。
ヤクザ達は部屋の外へ行き、1人になった雅は組長に麻酔を施し、手術を開始した。