第15章 金では得られないモノもある
「……いいだろう。だが最終決定権は組長にある。組長が死ねば、それはできなくなるぞ」
「だろうね」
私はこの街に長居できない。藍屋の安全を護りきることはできない。
だから、その組長とやらの治療を引き受ける。
(いや、助けを求めていることだけで、私が人を救う理由には十分だ)
裏社会に関わることは、自らその身を危険にさらすのと同じだ。
雅はこの先、ヤクザに関わったことをきっかけに命をねらわれることもあるかもしれない。
でも彼女にとって、そんなことはあまり重要ではなかった。
何故なら、すでに狙われたことがあり、未だに狙われ続けているかもしれないから。
(“あの烏”(天導衆)に……)
雅は背負っていた編み笠を被って、あまり顔を見られないようにした。
「これからその患者の元に私を連れていけ。いつから容態が悪いのか、病状はどんなものか、歩きながら話してもらう」
雅は周りをヤクザに囲まれながら、ヤクザ達の本拠地へ誘導された。
〈とあるバー〉
またも薄暗いところへ案内された。
バーの奥の床下に隠し通路があり、ハシゴで下を降りた。
その先には広い和室があり、ヤクザがわんさか待機していた。
「頭!連れてきました!」
7人の中の親玉よりも、さらに強そうな男がこちらをギラリと睨んだ。
グラサン、片目に大きな刀傷。
「オォ。お前が例の女医者か?」
雅はその圧に臆することなく、目も逸らさずに頷いた。
「いい度胸だな。仕事柄で死体をなんぼも見てきて、それなりの気の強さがあるってことか。その歳でしかも女で」
「誉めてもらうのは結構だが、すぐ患者に会わせてほしい。時間が…」
雅が一歩踏み出した途端、周りの手下たちが持っている脇差しを半分抜いた。
下手に動けばこっちが危ない。
「ああ。すぐに会わせる。こっちが頼むからこんなことあまり言いたくないが、必要だから言う。もし組長を殺すような怪しいマネでもしたら、お前を殺す」