第15章 金では得られないモノもある
「え?」
無表情の雅でも、二日連続ヤクザに頭を下げられて、キョトンとなった。
目当ての刀がまだ手に入ってないから、喧嘩になったらどう対抗するかと考えていたのだが。
この街のヤクザはその風貌に反して、教育が行き届いているのか。
(案外、店の主人よりヤクザの方が女性に優しいのか?)
親分に続いて手下の若い奴らも、こちらに頭を下げた。
「ウチの組長は危篤で、いつ死んでもおかしくねェくらいに弱っている。昨日も医者探しに街を四方八方走り回った」
親玉は頭を上げた。
そうか。藍屋勘さんと娘が助けを求めたとき、やけにカリカリしてたのはそういうことか。
自分達も手一杯なのに、医者に診せるための金をくれと言われたのが、癪に障ったのか。
「探し回ったが、有能な奴は全く。ウチの裏の世界のやぶ医者達も全く低脳だ」
ヤクザが住まう裏社会は、表よりも危険で過酷な世界。
指を切られることも日常茶飯事。
そこで活躍するのが、裏社会でヤクザの莫大な金と引き換えに医療を施す、闇医者だ。
「もうダメかと諦めかけていた。だが昨夜に、お前の噂を耳にした。それが本当だというなら、俺達に力を貸せ」
雅はYES/NOよりも、別の考えがよぎった。
相手はヤクザだ。きっとあらゆる場所に繋がっている。
大金を使って役人や商売人と裏で糸を引いていることだってある。
だからその糸を使って、この街の誰でも殺すことができる。
「……もし断ったらどうする?」
こう聞けば、恐らく「藍屋のガキを殺す」と脅してくるだろうと、雅は予想する。
「断らせないようお前を追い詰める。恥ずかしいことだが、頼みの綱はもうお前しかいないんだ。それに、返事は慎重にした方がいい。お前には
・・・・・・・・・
昨日助けたその人質がいるんだ」
やっぱり…
「いや、慎重にするな。今すぐしろ。こっちは時間が惜しいんだ」
ヤクザ達はさっきの謙虚さから、ヤクザらしく人を簡単に殺せるような雰囲気を醸し出した。
「…いいよ」
雅は承諾した。しかしそれは、命ほしさではない。
「ただし条件がある」
「条件?何だ?」
「藍屋の人達には手を出すな。この街の住民達にも。これからも、昨日みたいに無闇に人を傷つけないと、今誓って」