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君想ふ夜桜《銀魂》

第15章 金では得られないモノもある



「お前、医者だって噂は本当か?」

「……誰が言ったそんなこと。道化師の間違いじゃないか。私は見ての通りただの小娘で…」

サラサラ

「!」

雅は「自分は医者じゃない」と言いながら、左手で紙に書いた。

“ここでは明かせない。店の外でなら話そう”

親玉はそのメッセージを見て、女は何か事情を抱えていることを察した。

(左利き。やっぱりただモンじゃねェなコイツ)

「……確かにここだと店の迷惑だ。表出ろガキ」

雅は勘定を机に置いておき、ヤクザに連れて行かれた。

場所は、夜しか店が営業しない横丁だった。

「ここでなら人目はつかないだろうぜ」

「……」

女一人に対して、相手は7人ものヤクザ。

懐にはメリケンサックなど必ず武器を隠し持っている。

だが雅が今持っているのは、麻酔薬などの医療道具が入った風呂敷のみ。

武器になりそうなものといえばメスがあるが、ブラックジャックのように投げて攻撃をするのは嫌だった。

数に限りがあるし、衛生的によくない。

「で、お前の意見を尊重したんだ。さっさと答えろ」

「…そうだ。私は確かに医者だが」

「藍屋のガキの手術に成功したって噂も、本当か?」

「ああ。口外しないようにしていたのだがな」

女医の噂が広まれば街中に広がって、下手すれば幕府の耳にも入る可能性もある。

自分の師も、幕府に“通仙散”の存在が知られて、追われる身となったのだから。

雅はそれを考慮して、藍屋の主人やその家族に念を押したが。

(さすが活気な街なだけ、地域住民は仲良し子好しで、噂が早く広まってしまうのか…)

だが、大抵ならただのほら話と思うはず。

手術の成功例は極めて低いのが、
・・・・・
世間の常識だ。

まさかそんな話を信じる酔狂な連中が、ヤクザにいるとは。

「それとアンタらに何の関係がある?昨日のケジメのために私を殺しに来たのかと思ったが」

昨日会った奴はヤクザにしては寛大だった。

だが、殺しに来るのが普通のヤクザってものだろう。

「……そんなんじゃねェ。てめーに言いたいことは1つ!」

親玉は唇を噛んで、プライドも意地を捨てて、自分より遙かに若い女に頭を下げた。


「頼む。組長を、救ってくれ!!」

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