第15章 金では得られないモノもある
回想
1年前
〈街中〉
雅は丼物店で親子丼を食べていた。
利兵衛という藍屋主人の息子の診察が終わり、昼食を摂っていた。
周りの客は仕事のお昼休憩で立ち寄る男たちや家族連れが多い。
雅のような若い女一人は珍しく、周りはちら見した。
銀時達には昨日、先に帰るように伝えて、今は雅独りである。
これからの事を独りで考えたかったから、あえてそうした。
そしてさっき、ようやく決心が付いたところだ。
“今の仲間のために、この医術を使う”。
(だが、これから共に戦う戦友達の理解を得るのは難しそうだな。藍屋の時みたいにまた殴られたら)
まあ、ケガなんてすぐ治るから別にいいが
ガララ
店の戸が開くと、周りの客がどよめいた。
理由は、その戸を開けたのが柄の悪そうなヤクザたちだったから。
ヤクザは昼はこんな目立って活動はしないはずなのに。
しかも家族連れにしては7人と、かなりの大人数だった。
ヒソッ
「兄貴。アイツじゃないですか…?」
「ああ間違いねェ。青髪に左手に手甲」
7人は雅の1人席を囲い、周りの緊張がさらに加速した。
「あ、あのお客様。周りのご迷惑に…」
ギロッ
この店の看板娘らしき若い従業員が注意しようとしたが、傷がついたヤクザの目に睨まれて口が閉じた。
「迷惑はかけねーよ。それに俺達ャ客じゃねー」
7人の中の親玉みたいに強そうな奴が雅にガンを飛ばしたが、雅は全く見向きもせず、窓ガラスの外の景色を見ていた。
「おい。無視こいてんじゃねーぞ。ツラ見せろや」
雅はそのヤクザ達に顔を向けた。
(ほぉ、意外とめんこい面してんな)
「何で無視しやがる?」
「用があるなら話しかければいいじゃないか。何も言わないのなら、通りすがるのと同じだ」
ヤクザ達は雅の言動とその生意気さにカチーンと来たが、親玉は違った。
(こんな奴が俺の組に喧嘩売ったってのか?)
話を聞いたときは、全く信じなかったが、今、実際に会ってみて少し納得がいった。
目を見ただけで感じる禍々しい雰囲気、女のガキとは思えないその度胸。
この女、絶対誰か殺したことあるな。