第14章 少女よ、大志を抱け
(……アイツがコイツらと同じもんのために戦ってきたのは分かるぜよ。でも時折思う。アイツの本当の目的は、倒すべき敵は、もっと別の場所にいるんじゃないかと…)
でなきゃ、何でわしの手を借りてまで、遠い星に行く必要がある?
それも周りに迷惑かけとうないから、たった独りで…
『このことはアンタしか知らない。他の奴には絶対言うな。無論、晋助たちにもだ』
(おなごとの約束は絶対に破らんのがわしの信条じゃ。じゃから、今せめてわしが言えるのは…)
「おまんらの方がよく知ってるじゃろう?雅の道は誰よりも険しいことを。アイツはそれを覚悟の上で、医者の道を進んだんじゃろうな」
この時代。女が仕事するなんて、普通はない。
血気盛んな街並みでも、職人のほとんどは男。
女はその店の奥でひっそり赤子をおんぶして子供の相手をする。
中には、玉の輿に乗って快適な暮らしを手に入れる代わりに、その旦那の飾り人形として生きる者もいる。
それか、吉原で遊女として体を売って生きていくか。
この時代の女の世界というのは、あまりにも狭すぎた。
そして彼女は、その流れに逆らう奇士。
鯉のように、激流の滝だろうと登り泳いで逆らう者。
そして滝に逆らい続け、いつしか竜のようになるかもしれない変革者。
高杉は、さっきの桂の話で思い出した。
「ヅラ。去年の雅の頬の怪我。覚えているよな?」
「ああ」
「単刀直入に聞く。坂本が言ったみてーに、「女がでしゃばるな」とか言われてああなったんだろう?」
「!。……黙ってて悪かった。そして言い忘れて悪かった」
(やっぱりそうか……)
雅が坂本が言ったように、「苦難の道は覚悟の上だった」のなら、アイツも殴られるくらいの覚悟だったのか。
だが正直アイツの代わりに、殴ったその野郎の顔を、倍返しにしてやりてェと今でも思うな。
坂本は思った。
(女の医者は本当に稀ぜよ。戦後、世の中を変えることができても、その固定概念を消し去るには、相当の時間がかかるだろう…)
人の考えも心も、そう簡単に変えることはできんからのう。
「で、お前は何が言いてェんだ?」
高杉は坂本に聞いた。
「おまんら、たとえそれぞれの道に行っても、同門のよしみで文の1つや2つは互いに送れよ。もちろん雅にもだ」