第14章 少女よ、大志を抱け
「アナタ!今日は品を隣町に届けに行くって…!」
「それは後でやればいい。今しかやれねーことがあるんさ」
旦那は2階の利兵衛の様子をさっき見に行った。息子の元気な姿はとっくに拝んだ。
旦那は雅の目の前で、何と跪き地面に額をつけた。
「ちょっ…!」
藍屋勘は旦那のこんな腰が低い姿を始めてみて、おどおどした。
「昨日は、悪かった。償いとして、お前の依頼を無償で承りたい」
女である雅に暴力を振るってしまい、挙げ句一生尽くしても返せない恩を作ってしまった。
だから、藍屋の誇りにかけて、恩人に期待以上の羽織を藍染めで作りたいと、固く決意した。
「……頼みます」
そして旦那と勘に、具体的にどんなものがいいかについて話した。
雅は、色は“青”がいいとすでに決めていた。
「“青”か……“藍”に近いからやりやすいな。腕が鳴るぜ」
主人は雅の青い髪に目を付けた。
「青にするのは何かい。自分の髪色と統合するためか?」
「いえ。恩師の名前に“青”の字が入っているからです」
色は決まったとして、次はどんなデザインにするかだ。
その前に、藍屋勘は雅に聞きたいことがあった。
「……アナタは、大切な人のために戦に出ると仰いましたね」
「……そうです」
「ならなぜ戦場に出るのですか?医者としてではないんですか?」
「!」
今作ろうとしているのは、戦場に出るための戦闘着だ。白衣なんかじゃない。
そこを指摘されて雅の顔が曇った。
「……正直、まだ迷っているんです。こう見えて刀の素養を身につけていて、戦で皆のサポートをしたいと思っている。ただ、医者としては…」
雅は未だに、せんせーの医術を再び使うことを躊躇していた。
あの人の素晴らしい産物をこの汚れた手で、母を見殺しにした自分が使う権利があるのだろうかと。
雅の苦い顔を見て、深い事情があると察した藍屋勘は、真逆の優しい笑顔で自分の思ったことをありのまま話した。
「戦は勝つために、敵を殺めることしかできません。ですがアナタなら、その大切な人たちを救えます。なので、迷う必要なんて無いと思います」