第14章 少女よ、大志を抱け
「アナタのような方がいて、息子はもちろん私も本当に救われました。このご恩は、決して忘れません」
藍屋勘に続いて、娘もぺこりと頭を下げた。
「……私はそんな立派に見えますか?」
ハッ
雅はつい、本音のようなものを出してしまった。
藍屋勘と娘から見たら雅は、何か思い詰めているような気がした。
まるで、自分に自信が無いような、少し弱々しい感じに見えた。
そこで娘はわざとらしく、雅に続いて本音を漏らした。
「あーあ、この世にいるお医者様が、お姉ちゃんみたいな人達だったらな。そうすれば、先生も寂しがる必要はないでしょ?」
「!」
この時娘は、雅は自分以外の女医が周りにいないから心細い思いをしているのだと思った。
昨日殴られたことは全く根に持っていなくても、今までそんな惨めな扱いを受けてきたのかもしれない。
立派な人助けをしているのに、それ相応の見返りを貰うどころか差別されるなんて、あんまりだ。
藍屋勘も、娘と同じ事を考えた。
「先生。やはりお礼させてください。うちは藍屋なので、服関連しかご用意できませんが…何か私にできることはありませんか?」
「服……。!」
そういえば……
「あの……」
でも、言ってもいいのか。
雅はレディースサイズの戦の羽織をちょうど探していた。
こんなチャンスもう二度と来ない。どうせ手に入れるのに事情を説明するから、仕方ない。
「……戦の羽織を…作ってほしいのですが…」
「戦?!」
藍屋勘は目が飛び出るほど驚いた。当然の反応だ。
イレギュラーな女医が、女としてイレギュラーながら戦に出るのだから。
「アナタ…戦に出るのですか?」
「はい」
雅の真剣な眼差しに、嘘はなかった。
「…何のためですか?」
お金のため?手柄のため?
嫁ぐ年頃でありながら、何のためにその身を戦に投じるのだろうか?
「……大切な人の“想い”を、護るためです」
「……分かりました。主人を説得してみます。いえ、もし反対されたら、私が独断で…」
「その必要はねェぜ」
藍屋の主人がひょっこり姿を現した。