第14章 少女よ、大志を抱け
「先生のおかげで“弟”は元気になった!ありがとう先生!」
「…うん」
「あの…先生。誠に失礼ながらお聞きしたいことがございます。何故アナタのような方が、そんな立派なお医者様になろうと決意したのですか?」
藍屋勘は質問した。
「……そうですね。憧れの人と、助けたい人がいたから、ですかね」
藍屋勘は微笑んだ。
「アナタ様をそこまで突き動かしたとなれば、その方達も、アナタ様に負けないくらい立派なお人だったのでしょうね」
「……そうですね」
雅は自分の尊敬する師と愛する母のことを他人に誉めてもらって、何だか嬉しい気持ちになった。
しかし、心の中では未だに迷いがあった。
尊敬する師から受け継いだ力を、再び自分が使っても良いのかと。
今回は上手くいったが、自分はかつて二度と治すことができない過ちを犯したのだ。
それも、この世界で最も救いたかった人を、“その過ち”のせいで救えなかった。
だから、お前が母親を殺した、と言われても返す言葉がない。
せんせーの医術を、私が再びこの薄汚れた手で使ってもいいのかと。
そんなことを考えていたら、ふと桂に昨日言われたことを思い出した。
『お前が救えるのは、病に蝕まれ、前を見ることができない者達だ。前を見て生きる力を与えることができるお前が、前を見ずしてどうする?』
(……確かにそうだな。こんなうじうじ考えている奴に救われたなんて知ったら、あの子に申し訳ない…)
グイグイ
「?」
娘が雅の袖を引っ張って話しかけた。
「ねえ、お姉ちゃんは、どうしてあたしを助けてくれたの?ヤクザの人にお手てケガされたでしょ?どうして勇敢に立ち向かったの?」
娘は昨日の雅の行動を、ずっと不思議に思っていた。
「…簡単な理由だ。君が、勇敢だったから」
『“弟”を、助けてェッ!!』
自分より強い者に立ち向かってでも、護りたいものがあった。
私はその勇気に敬意を表しただけだ。
「……“弟”いたの?」
「!」
「お姉ちゃん、すごく面倒見が良い人だから、そうなのかなって…」
同じ、弟を持つ姉として、何か似たようなものを感じたのか。
・
「……いたよ」
だから、君の弟を助けたいと思ったのかな…私は……