第14章 少女よ、大志を抱け
「ハァ?!誰かが作ったネタじゃねーのか?物語的な?」
「あり得ねーだろ!まさかそんな…」
この時代での治療は、主に漢方薬やお祓いが主流で、手術とは成功率は非常に低い、一か八かの賭け、“最後の手段″とされていた。
丁半みたいな、フィフティーフィフティーの賭けとはワケが違う。
だから手術とは、これ以上苦しまないようトドメを刺すような役割でもあった。
「だが、ヤクザを一泡吹かせたほどの奴だぞ。そんぐらいの魔術を持っててもおかしな話じゃないんじゃないか?」
「もしそうなら、俺の尻のイボ痔でも治してもらいて~よ。かみさんとやる時、布団にこすれて痛くてよ~」
「その話、本当か?」
『!』
席のそばに柄の悪そうなヤクザ達が突っ立って、こちらを睨んでいた。
周りの客も一斉に注目し、店の従業員でさえ足を止めた。
3人の男達たちは、酔いが一気に覚めた。
「え、あ、あの…」
「てめーのイボ事情なんざ、てめーが生きていることと同じくれーどうでもいいんだよ」
男は、ヤクザが無様にやられたと自分がのたまっていたのを気に食わないと思われ、きっとひどい仕打ちを受けると、そんなことばかり不安に思った。
しかしヤクザは笑顔とは言い難い笑顔を見せて、懐からお札を取り出した。
「で、その一泡吹かせた女の話、もっと詳しく聞かせろよ。ほら手切れ金もあるからよ」
〈静閑荘〉
雅はこの宿の部屋で、座って壁に寄りかかってボーッとしていた。
チェックインした際、宿主のお婆さんに大層驚かれた。アナタお一人で?!と。
雅は居酒屋の酒の酔いはもう覚めて、布団で寝そべっていた。
「……考えると言っても、どうしたものか…」
私は、母を救うことができなかった。せんせーとの約束を護れなかった。
そんな私が、また再び大志を抱く権利があるのだろうか。
いや、私は多分、また失敗することを恐れてるんだろう。大志を抱いても、果たせなかった。
母とは、愛を語っていた。
『私、将来父さんみたいな人と一緒になりたい』
せんせーとは、夢を語っていた。
『せんせーのような医者になって、母さんだけじゃなく、___の病気も治すよ!』
そんなことだけを考えていて、それ以外のことは何も考えてなかった。
今にも教えたい。昔の自分に。どれだけ愚かだったのか。