第14章 少女よ、大志を抱け
「……アイツには、戦の前に決めることがあるだけだ。その内、お前にも話してくれるさ」
雅に医者としての力を貸してほしい。
それは雅のためと言いながら、俺のエゴかもしれない。
彼女は間違いなく天才外科医だ。
彼女の力があれば、俺達の戦況は絶対に優位になれる。
(だが、彼女が医者としてあの少年を治した時のアイツの姿は、今までの中で一番生き生きしていた)
女だと揶揄されようと、たとえ殴られようと、奴は絶対に諦めなかった。
奴が生んだ“奇跡”は、奴が今まで培った努力の結晶、生きてきた証そのものだ。
アイツには、医者として大志を抱いて、俺達のそばにいてほしい。
もう自分を責めるのをやめて、今の仲間を、これからの自分の未来を考えてほしい。
剣先をもう己に向けるのではなく、この先立ちはだかる壁を乗り越えるために、その未来に向けて、前を見てほしい。
桂は微笑んだ。
「じゃあ俺達ももう少し飲んでから帰るとしよう。奴なら大丈夫だ。ちゃんと布団をかけて寝るさ」
「って、結局教えてくんねーのかよ」
桂と高杉は2階のカウンターに戻って、銀時と3人で飲んだ。
1階にて、こんな話をする男が3人ほどいた。
「そういえば聞いたか?藍屋のこと?」
「あー、あそこの嫁さんヤクザに借りを作ろうとしたって話?危なかったよなー」
「それを止めた奴の話だ?聞いたか?まだガキだったってよ。しかも女」
「女?!」
「さらにさらによ。ヤクザの方が手ェ引いたって。女が睨み合いに勝ったらしいぜ」
「嘘だろ……」
この街のヤクザはかなり極悪ヅラな奴ばかりで、腕もかなりのものだ。
昼の顔で生きている職人達は、そんな夜の顔で生きている奴らのことも知っていた。
「この街にそんな強気で酔狂な女はいねーよ。きっと流れモンだな」
男はそう言って、酒をグイッと飲んだ。
「まだこの話に続きがあるんだ!驚くのはこれからだぜ。なんとその女はよォ、あの藍屋勘の息子の利兵衛の病気を治したんだとよ!しかも漢方薬でもお祓いでもねェ。直接手で」
『!!』
2人がその話に驚き、1人は思わず酒杯を傾けて酒がこぼし、もう1人は酒を吹いた。