第14章 少女よ、大志を抱け
「でも桂…私は……」
「何の話してんだお前ら?」
『!』
高杉は2階から下りてきて、雅の後ろあたりにいた。
桂と雅が中々帰ってこないから、様子を見に来たのだった。
「何の話かは知らねーが、あんま困らせんなよ」
雅が元気がなさそうで、桂が何か彼女を困らせるようなことを言っているのかと思っていた。
「ち、違うぞ高杉。俺は……」
「私そろそろ行くわ」
雅は自分の飲み代の分のお金を置いてきたから、このまま帰ろうとした。
「雅!話はまだ…」
「考えておいてやる。そのために早めに宿に帰るんだ」
「!」
「?」
高杉は話が全く見えなくて困った。
「お前……」
「長話は苦手なタチだ。話し合って決めるより、酔い覚めてから独りで考えたい」
雅は宿の閑静荘に行こうと、階段を降りようとしたら、高杉は彼女の左手首を掴んで止めた。
「俺の話は聞く気はねーのか?」
「アンタもか……まあいい。で何だ?」
「その傷、どいつにやられた?」
高杉がずっと気にしていたのは、雅の痛々しい頬のガーゼだった。
「最初から気付いてたぜ。転んだってのは嘘だろ。ヅラも結託しやがって。一緒に付いていながら護れなかったのを知られたくなくて、嘘を付いたのか?」
「違う。ヅラは関係無い」
雅は桂を庇い、それを高杉は少し不服に思った。
「私はボディーガードなんて、居酒屋とはワケが違う高そうなコースを頼んだ覚えも無い。何で最初から分かっていた?」
「転んだら誰だって反射的に腕をクッション代わりにして、腕や肘をケガする。
・・・
顔から地面に転ぶのは普通はねェだろ。特にてめェみてーな、転ぶこと自体あり得なさそうな用心深い奴はな」
高杉は最初からお見通しだった。
雅と数年間、共に松下村塾で過ごしただけある。彼女のことをよく知っている。
「どいつにやられた?」
「……それは言えないな。ソイツの名前を教えて、私にメリットでもあるのか?」
「!」
雅にとって頬の傷など、タコに殴られた程度のへなちょこパンチだった。