第14章 少女よ、大志を抱け
「松陽先生がいなくなれば、か……もしそうなったら、今のお前のようになるやもしれんな」
桂にとって、松陽は尊敬すべき師。夢の始まりだ。
だからその人がいなくなれば、きっと自分は人生の中で最も底の方に沈むかもしれない。
それも雅のように、自分が死なせてしまったという自責の念があれば。
「だが、それでも俺は再び立ち上がり、国を変えるためにその明日のためにまた前を向くさ。たとえ何日かかろうと何年かかろうと。あの人から貰ったものを蔑ろにすれば、それ以上に後悔するから」
「……口で言うのは簡単だ。だが、実際になれば、アンタはそんな殊勝でいられなくなる」
雅は未だに、桂の問いに“うん”とは言わない。
「……「思い出した」と貴様はさっき言ったな。なら、また歩けるだろう。昔のような大志が抱けないなら、また新しい大志を抱けばいいではないか?」
「!」
今の雅は、昔の後悔をずっと引きずっていて、未だ地べたを這いずり回っている。
人付き合いが上手くないのは性格の問題として、桂はそこまで口出しする気はない。
ただ、今の彼女じゃいずれ、自分の身を滅ぼすような気がした。
自分は大切な人を死なせてしまったんだと、自分を責めて後悔している。
いつか、自分を殺しかねないのではないかと…
・・・・
でも、後悔だけじゃ何も生み出さない。
「辛いことがあり挫折し足を止めたのなら、もう一度歩けばいい。過去を振り返ることで前を見るのならいい。だが、
“後ろ”(過去)だけを見ていては、“前”(未来)など見れるわけがない」
この戦は、国の未来のため、俺達の未来のための戦だ。
なのに、お前のように過去ばかりを見つめている奴には、この戦は荷が重い。
今の彼女を戦に出すのは……
「お前は、自分が言ったこととは反して、他人を救えたではないか。あれはまぐれではない」
『……誰よりも一番救いたかった人を救えなかった私が、他人を救えるか?』
彼女はそう言った。
だが、彼女は紛れもなく、1人の命を繋いだ。
国の未来を担う小さき者を救えた。