第14章 少女よ、大志を抱け
(あんな必死になって、誰かを救おうとしたのは、本当に久方振りだった……)
でも、たとえ一時だけ自分が戻ったとしても、周りは戻らない。
昔、私のそばにいてくれた人は、もういない。
1人は、お星様になった。私が、あんなことしなければ……
1人は、私を置いてどこかにいった。もう殺されてしまったのかもしれない。
そしてもう1人は、今の私とは対極的な場所にいる。
今頃何をしているか、それとも生きてるのか…きっと元気にしてるだろう……
私は、その人達がいたからこそ、昔の自分でいられた。
かけがえのないその人達の、支えがあったからこそ、大志を抱けた。
だから、今の私じゃ……
「お前はまるで、自分を誤魔化しているように見えるぞ」
「!」
「本当はお前が一番分かっているのではないか?このままではだめだと」
雅は再びいつもの鋭い目で桂を睨んだ。
「アンタに私の何が分かる?」
「分からん。だからこそ、俺達は少しでも分かり合おうと、互いに知ろうと手を取り合うのが仲間というものではないか」
相手を知り尽くしているからではない。
知らないこそ、知ろうと努力して手を差し伸べ合う。
「お前はさっき「思い出した」と言ったな。なら、その志も本当の自分とやらも思い出せたのではないか?」
「……」
雅は突っ立っているのが疲れて、壁に背をつけた。
「……私は松下村塾で、アンタに話してしまうほど、かつて医者になることを切望した。誰よりも医者になりたいと願ったさ。だが、その憧れの根源が、目的が無くなれば、あとは何が残る?」
憧れのきっかけを、全ての始まりが壊れれば、その夢は何になる?
私は全ての人を助けたいと思ってはなかった。たった1人のために、この技術を得たのだ。
だが、もうその人はこの世にいない。
一番救いたかった人を、母さんを、救えなかったのに、これで大勢の命を救うだと?
もう私は、昔のような大志は抱けない。
「例えばアンタも、松陽先生に憧れて、国を正しい道に導く立派な侍になる夢があるだろう。それは自分の武士道のためであり、松陽のためでもある。
だが、もしその夢のきっかけが、全ての始まりが終われば、残るのは何だ?」
もし松陽がいなくなれば、アンタはどうする?