第14章 少女よ、大志を抱け
「そうか。元々好きではないから、あまり気にしないのか…」
桂はさっきの吐き気が消えるように呼吸を整えて、雅はその背中をさすった。
「……落ち着いたら戻ろう。銀達には私が適当に言っておく」
「…俺は……今の俺よりも、
・・・・
今のお前が気がかりだ」
「!」
桂は急に話題を変えた。
「今日のお前を見て、俺ははっきり決意した。お前に伝えようと」
「何をだ?話なら聞く」
桂は、さっき言い損ねた言葉を、今この場で再現した。
「雅。お前のその医術。俺達の為に使ってくれないか?」
「……」
雅はすぐに返事をせず、強い視線を桂に向けるだけだ。
・・・・・・
これだけでは、彼女の気持ちは変わらないか。
「…お前のその技術は、必ず俺達の戦で、勝利への道を切り開いてくれる。お前の腕はそれほど大いなる力を持っているんだ」
雅は自覚していないだけで、まだ自分の術にどれほどの価値があるのか分かっていないかもしれない。
そう考えながら、桂は自分の思ったこと全部、彼女に伝えることに必死になった。
「…お前が昔、その高度な医術を持ってしても大事な人を失い、その傷が未だに癒えぬのは知っている。だが、お前なら大勢の命を救える。お前にしかできないことなんだ」
「……私は、女医者だ。普通じゃ有り得ない存在だが」
「だが、そんな常識でさえ、諸共しない精神を持っているんだろう。藍屋の旦那と揉めたときだって、お前は一歩たりとも身を…!」
桂は、今にも泣き出しそうな雅の悲しい顔を見て、思わず声が詰まった。
「…そうだ。あの時、思い出したんだ。ずっと忘れようとしたのに……体は覚えていやがった……」
雅は腕を組む形で自分の体を包んだ。
藍屋で私は昔の、医者の志を持った__雅として、あの少年を助けた。
今まで松下村塾で自分の侍を見出すこともできなかった、
晋助の勝負にもただ付き合って、
銀時を兄弟子とただ思って、
ヅラがやけに気を遣うのをただの馴れ合いと思って、
皆と同門として最低限の付き合いをし続けた、ただの雅じゃなくて。
あの時だけは、昔の自分に戻った気がした。