第14章 少女よ、大志を抱け
高杉達がまだいなく、松下村塾の門弟が銀時と雅だけだった頃。
銀時はよく松陽にお菓子をねだってもらっていた。
それを彼女は木の上で眺めていた。
入ったばかりのあの頃は、まだ松陽や銀時に警戒心を抱いていたから、一時は梅の木の上にいて、銀時からは「うぐいすかてめーは」とツッコまれたこともあった。
「おやじ!酒追加!」
「飲み過ぎはよくない。帰りが大変になるぞ」
「おめーに言われたくねーな。てめェはいいよな。1人で泊まるらしいじゃねェか。どうしてまた急に?」
「それは…」
雅と銀時が隣り合わせで会話しているのを、高杉は桂を挟んで端から眺めていた。
そして、いい気分でもなかった。
雅が別の誰かと、顔には出さずとも楽しそうにしているのを見ると、何故かムカムカした。
「はい、ユッケお待ち」
おやじは4人それぞれに、最後の品を配った。
ようやくメインディッシュだ。赤身の生肉の真ん中に黄身が乗って、美味しそうだ。
「!!」
その料理を見た途端、桂の様子が変わった。
お昼で見た手術の光景を、思い出してしまった。
赤い肉塊。雌で切り込みを入れたところから、血が溢れ出……
「ウッ!」
気分が悪くなり、口を抑えてその場から立ち去ってしまった。
「お、おい!ヅラ!どうしたんだ!?」
さすがにいつもと様子が違うことに、銀時は大きな声を出して追いかけようとした。
しかし、銀時よりも速く雅が速くその場を去った。
桂は下の1階へ続く階段の壁に寄りかかっていて、雅は追い付いた。
「……すまなかったな。言っておくべきだった」
雅には、こんな事しか言えなかった。
何で気付かなかったのだろう。
生肉を見れば、必ずフラッシュバックすることを。
「い…いや、俺が脆弱なだけだ。いずれこうなっていたさ……」
戦が始まるよりも前に経験できたのだから、むしろ喜ぶべきだと桂は思った。
1ヶ月後に控えた戦で、嫌なくらい見る。人の内側を。
「…平気でいるお前は、とっくの昔に慣れたのか?」
「……そもそも、肉そんな好んで食べない」