第5章 人は皆 十人十色
〈松下村塾の外〉
キョロキョロ
(アイツどこだ?)
見渡してもいない
今日来てなかったのは、昨日のことがあったからと思っていたが…
来た途端またどっか行って
(ひょっとして…!)
高杉は勘である場所に向かった。
(ここにいると思ったが…)
昨晩涼みに来た、雅と会った場所だ。
しばらく歩いていると、
(やっぱり…!)
雅が向こうで、こっちに背を向けしゃがんでいた。
(あんなとこで何してる?)
建物と地面の暗い隙間に覗き込んで、何かをしてるようだ
(あ、ヤベ…どうする?)
声をかけようとするも、肝心なことを忘れてた
追ってきたのにも関わらず、
何のために来たのか考えてなかった
昨日のことを聞くため?励ますため?
そんなん気まずくて、ストレートに聞けやしねェ
(ヅラとは違って、女の慰め方なんて本当に知らねーんだよオレは)
「こんな所で何してる?」
「!」
色々とムシャクシャしてた隙に、いつの間にかソイツが俺の前に立っていた
(ゲッ…!)
俺とソイツの間には微妙な距離があった
まるで、西部劇のガンマンの撃ち合い直前の張り詰めた空気だ
(どうすりゃいいんだ?)
向こうから近づいてきて、さらに距離を縮め、お互い目を合わせた
※身長は同じくらいなので、目線は一緒
正面からコイツの顔を見るのは初めてだ
雅の容姿は整っていて、学問に普段の動きや仕草にも無駄がない。
剣の腕は、銀時や高杉といい勝負ができるほど。
“出来ないことがない”
雅が桂に限らず周りの人たちからそう言われていた。
ヅラがコイツを気にかけるのは分かるが、
(確かに見ようによっちゃ…)
笑ったら、可愛いんじゃ…
「!」
待て待て違う。こんな奴 俺は…
ひゅう
そよ風が吹き、雅のきれいな髪がなびく。
邪魔そうな長い前髪をかき分け、そしてようやく無表情でたった一言だけを口にした。
・・・・・
「昨日のこと、誰にも言わないでほしい」
(!)
やっぱり、コイツも気にしていたのか?
「お前なん…」
高杉が言い切るよりも先に、雅はすれ違うようにその場を立ち去ろうとした。が、
パシッ
高杉は雅の腕を掴んで止めた