第5章 人は皆 十人十色
回想
松下村塾にて、
ミ~ンミンミンミンミンミンミンミンミンミ~
蝉が元気よく鳴き響き、子どもたちも活発でいた。
「最近暑ィなー」
「暑って楽しいけど夏いのがね」
「お前逆になってね?」
「あとで蝉取り行こうぜ!」
そんな中、高杉は頬に手をついてまだ空の雅の席を眺めていた。
(アイツ…)
今日はまだ来てねーが、あの時…
間違いなく泣いていた
単発的とかそんなんじゃねェ…確実に何かあったんだ
あんなツラ…
見たくもねェもん見ちまった
涼みに行くはずが、余計眠れなくなった始末
おかげで今日は寝不足で、授業もほとんど聞いてねェし
まぁいつも真面目に受けてないがな
いや、それよりアイツに会ったらどんな顔すればいいんだ?
あ~クソッ。寝不足で頭回んねェ
アイツの泣き面が頭から離れねェ…
高杉はしばらく頭を抱えた。
「高杉」
「!」
桂は、さっきからぼーっとしてる高杉を不思議に思い声をかけた。
「さっきから上の空だ。どうした?」
「どーした思春期のガキか。いや、発情期か?まさか昨日のことでムラムラしてんのかァ?」
銀時が嫌みったらしく言ったのに対し、高杉はそんな嫌がらせに乗らず声も上げず黙りこむ。
「おい?本当にどうした?」
「何かあったのか?」
いつもなら喧嘩になるはずが、らしくない高杉に銀時もシリアスになった。
「…お前ら昨日」
「あ、雅」
「!!」
まさに高杉がその名を言い掛けた時、ようやく本人が現れた。
「おはよう雅。珍しいなお前が遅れるとは」
「少し用があって遅れた」
雅は桂といつも通りの会話をした。
その横顔を見る限り、いつも通りの顔
人間味を感じさせない表情だ
何考えてるかも分かりゃしねェ、そのミステリアスな雰囲気
なのに、何でだ?
(何で泣いてたんだよ?)
雅は高杉の視線に全く気付かなかった。
まるで、昨日のことがなかったかようだ…
「また席を空けると、松陽先生に言っておいてほしい」
彼女は言伝だけを頼み、また教室を出ていった。
その途端、高杉は立ち上がった。
「おい。どこへ行く?」
「厠だ」
適当に理由を付けて、部屋を抜け出し後を追った。