第14章 少女よ、大志を抱け
手術用ベッドを長方形に描いて、その上に患者が寝ているのをイメージして、手の動きの練習をしたのだった。
医者になることを何度も諦めようとしていた彼女だったが、それでも練習をやめることはできなかった。
(若者なのになんつー話してんだ?)
「と、取りあえず、お待ち」
おやじは冷や奴、枝豆、トマトのサラダ、おでん、鰆の天ぷらをテーブルに置いた。
4人はおいしそうな料理を箸で挟んで口に運んだ。
「あら、また珍しいな。左利きかい?」
おやじさんはまた雅に目を付けた。
彼女は箸を左手で持っているから。
雅は見た目が怖いから、初対面で話しかける人ような酔狂な人はあまりいないはずなのだが。
これが、今まで客商売してきた男の力というものか。
「このご時世。左利きは右に直すよう強制されちまうもんだが、嬢ちゃん酔狂者か?」
「……そうやって話しかけるアンタも酔狂ですね」
雅はめんどくさそうに返事をした。
「でも、アンタがそれでいるのは、親が自由に育ててくれたんだね~」
『!』
3人は一気に彼女に注目した。
彼女の出生について触れることなんて、タブーだから。
自分の氏でさえ教えないから、余程知られたくないのに。
おやじに果たしてなんて返すのか。
「……ええ。自由に育てるどころか、“その人”が自由奔放過ぎましたよ」
雅は誰よりも速く酒を飲み終わり、2杯目に突入した。
・・・
(その人って、誰だ?)
高杉はそこらへんが気になった。
直接親と言わないということは、松陽先生の可能性もあるから。
気になってあとで聞いてみても、教えてくれないだろうが…
高杉は幼なじみでありながら彼女との溝を感じ、酒の表面に映る自分の顔を眺めた。
「そういやお前らさん、どういう関係だ?合コンにしちゃ3対1で役者不足だが…?」
「合コンじゃない幼なじみだ。腐れ縁でもありクラスメートみたいなものだおやじ」
桂が説明した。
「じゃあ嬢ちゃんは、コイツらの姉ちゃんってところかい?」
「……ええ。でっかい弟たちで手が焼けます」